A




その綺麗な子との出会いは強烈だった。

ヅラにまんまと乗せられた俺たちがいた池田屋ってホテルに、真選組っていう対テロリストの武装警察ってやつが乗り込んできやがった。
あのときの事を思い出すとヅラを絞め殺したくなる………あ、でも、あれ?あのおかげで俺は綺麗なあの子と出会えたんだから感謝すべき?……いや、やっぱむかつくわ、あのヅラめ。


第一印象はいいもんじゃなかった。当たり前だ。いきなり斬りかかってきたんだから。

あれ、銀さんじゃなかったら斬られてたかんね?銀さんの並外れた反射神経のおかげだからね?

でも初めて見たその顔はすごい印象に残った。まさか瞳孔開き気味で生きてる人間がいるとは思わなかったし。

まあそんなこんなで印象にあったはずなんだけど、俺って嫌なことは忘れちゃうタイプなんだよなぁ…。そのときも家に帰ってクソして寝たら、すっかり忘れちまってた。




第二次接触は屋根の上だった。


このときもいきなり斬りかかってきやがった!なんだよ、銀さんが何したって言うーの!?誰か警察呼べコノヤロー!!

そしたらなんかしゃべり始めた。こんどーさん?あぁ、あのゴリラストーカー??何、あんなの上司にもってるなんて、あんたも大変だねぇ。え?大事な大将……?



そして、漸く俺はその子をまじまじと見てみた。



綺麗なさらさらの黒髪が風になびく。
こちらを睨み付けているその色素の薄い目は、何か大切なものを必死で守ろうとする決意に満ちていた。
全身を纏う服は真っ黒のくせに、顔は対照的に色白で、薄い桃色の唇は淡々と言葉を紡いでいた。



あぁ、綺麗な子だなぁ。ふと思った感想がこれだった。




なんて綺麗なんだろう。
自分が大切にしているものを必死に守ろうとしてる。
真っ直ぐな精神、その姿。

容姿ももちろんだけど、その想いが綺麗だと思った。

だったら、俺もその想いに応えるべきじゃない?

俺にも譲れない武士道があるってところ、見せてやらないとフェアじゃないでしょ?
ごめんね、あんたの大事な刀だろうけど、犠牲になってくれや。
俺のルールを通すために、さ。






それから。なんとなく俺はあの「多串君」が気になって、外に出るときは目で探してみたりした。

寄れば喧嘩ばっかりしてたんだけど、なんかそんな関係も悪くなくて、結構楽しかった。

だってさ、普段冷静なあいつが俺には過剰に突っかかってくんのが面白くて、ついついちょっかいかけちゃうわけ。
小学生か、あいつは。
……あれ?俺もか?

そんなに俺に一度負けたのが悔しかったのか、なにかっていうと俺に勝負を持ち込んできた。

真剣に頑張るあいつがほんとに…。うーーん…。




この頃、変なのだ。
あれだ、眼科に行ったほうがいいかもしれない。診てもらったほうがいいかもしれない。
……金ないけど。

最近あの、意地っ張りで強がりで生意気で腹ただしいはずの「多串君」が、
綺麗で(コレは前々からだけど)
かわいくて
なんかもうぎゅーってしてやりたい子だなぁと見えるようになった。

変じゃない?これ銀さん変じゃない?




だってさ、すぐ強がったりさ、
全力で突っかかってきたりさ、
普段の色白い顔を紅潮させて一生懸命になってたりさ、
たまに拗ねたように視線外して煙草の煙を吐き出す瞬間とかさ、
……なんかこう、こうさ…。

ぎゅーーーってしてやりたくなるの。わかんない??
……わかんないかな…。





- 12 -

[*前] | [次#]
ページ:



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -