A







「……なにがしたいんだよ、近藤さん」

「んー?トシに甘えたかったの」

「………あのなぁ〜…」

「トシに甘えたかったのに、昼間いなかった」

「仕事で役所に出張ってたからな」

「夕飯の時もいなかった」

「昨日言ったろ?役所のやつらと会食だって」

「その後もずっといなかった」

「隊士が風邪引いて、代わりに見回りだったんだ」

「やっと会えた〜」

「………(はぁ)」


俺たちは今、座り込んで向かい合って抱き合ってた。
というか、俺が自分と壁の間にトシを挟んで閉じ込めてるかも…。
顔は見えないけど、密着した分トシの息遣いとか鼓動とか匂いが物凄く近くて。
その暖かさに俺は喜びを感じてた。



だって、今日はずっとトシに甘えたくて触りたくて仕方なかったのに、一日中トシに会えなかったんだ。
このくらいの我儘、普通なんじゃないか?と思う。

「いい加減離れろ。着替えさせてくれ」

「着替えおわったらまた抱きしめていい?」

「……風呂入る」

「風呂が終わったらまた抱きしめていい?」

「…まだ書類が…」

「邪魔しないように後ろから抱きついてるから」

「あんたなぁ……」

「書類終わったら一緒に寝ていいか?ぎゅーしたまんま」

「!!ふざけ…やっ!?」

トシが罵声を発する前に、トシの首元に唇を寄せ柔らかく食むと、面白いくらいトシはびくついた。

「トシ、駄目?」

やわやわと唇で、時折優しく歯をたてて、俺は目の前の白い肌に愛撫した。

首を竦め、俺を離そうとトシは健闘するものの、平素でも俺のほうが力があるのに、更に力が抜けている今の状態じゃまったく意味がなかった。


「いやっ……、こ、んどーさんっ、はなして…」

トシは物凄く敏感だ。白い肌は桜色に染まり、なんとか引き離そうと俺の頭に置いた両手は力なく、まるで縋りついているようだ。仕上げに浮き出た汗を下から上に舐めあげたら、「あぁっ!」って擦れた艶っぽい声で鳴いてくれた。


「ね?いい?」

確信犯的に俺はトシにもう一度聞いた。答えなんて一個しか許さない。


正面からトシの顔を見れば、真っ赤に染まった綺麗な顔と潤みすぎてとうとう零れた一筋の涙、切なそうに眉を寄せてぼーっと俺を見る美しい瞳。……むらっとくるが我慢する。それは駄目だから。鈍いこの子でも気付くような行動はご法度。

「かっ…勝手にしろ!」

ぷりぷり怒るかわいいトシは、着替えるんだから、と俺から離れた。





悪戯だと思ってるんだろうなぁ。仲いい男同士の、他愛のないじゃれあいだと。

キスしたり、耳の穴に舌を突っ込んだり、首を甘噛みしたりさ。

馬鹿だな、トシ。
普通、いくら親友っていっても、男同士でこんなことまでしないよ。


友達とか作ったことのないトシに、自分に都合のよいようにあることないこと吹き込んだのは、俺。


かわいいトシ。
俺のトシ。
俺だけのモノ。


俺にだけ全幅の信頼を寄せるこの男の隣は、本当に居心地がよかった。

いつからだろう?トシをもっと違う目で見始めてしまったのは。
その甘い身体に触れてみたくなったのは。もっと歪んだ綺麗な姿を見たくなったのは。


俺の下で、見たこともないくらい妖艶に乱れるトシを想像しながら何度その身を慰めたことだろうか?


恋なのか。ただの欲望なのか。今でもよくわからない。


わかるのは、それでもトシを離したくないし、傷つけたくないということだけ。


なぁ、トシ。
いつになれば、俺はこの気持ちの正体に気付くのかな?
恋かな?愛かな?とっくに友情の域は越えてしまった。

トシ。

俺から離れようとしたら許さない。
そんなことしたらきっと、トシを壊すよ。

だから絶対そばにいて?
俺を甘やかしてよ。
「しょうがねぇなぁ」って頭撫でて?
「俺なしじゃ近藤さんはだめだ」って思ってろよ?



ずっと、ずっとだ。



その夜は、一組の狭い布団で二人くるまって眠った。
トシは恥ずかしがって向かいあわせでぎゅーしてくれなかったけど、俺は後ろからトシをぎゅーできたから満足とした。
トシは石けんの香がした。
でも俺はトシ本来の匂いの方が好きだからなぁ、とかなり変態じみたことを考えてしまった。いかんいかん。

すうすうと寝息が聞こえる。俺も寝るか。






翌日。
寝相のよくないトシが俺の頭を胸元に抱えるように寝ていて、思わず目の前のピンク色の乳首に吸い付いたら殴られた。
しばらくトシに近付けなかった……。







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