忘れていたわけではないが。
昨日はそういえばあやつの誕生日だった。
攘夷活動で忙しい俺だが、かつての同胞にせめて祝いの品でも贈ろうかと思ってな。
「と、いうことで『宇宙怪獣ステファンの人形焼き』を携えて、エリザベスと共に伺ったまでだ」
「それはいいとして、だなぁ……
なんで勝手に上がって冷蔵庫の中の物食ってるんだよっ!不法侵入で警察に突き出すぞ!!」
「ふ、甘いな銀時。不法侵入などつまらない罪で訴えなくとも、俺は既に指名手配されている」
「だから何だよ!それ何、自慢っ!?ぜんっぜん羨ましくないんだよっっ!」
「『確かに』」
朝っぱらからよく吠える。せっかくの朝飯がよく味わえないではないか。のぅ、エリザベス?「『桂さんは勝手すぎ』」
「しかしこの味は…。これはお前が作ったのか?ずいぶん腕を上げたではないか」
酢豚などこの酸味具合といい、絶妙の味加減だ。銀時が器用なことは知っていたしこやつが作った物を食したこともあったが、ここまでやるようになったか…。
「だから食うなよっ!俺が作ったんじゃねぇ!」
そう怒鳴られ手に持っていた酢豚を奪われる。ならば、と俺はオムライスに手を伸ばしてそれを食す。だから食うなーっっ!と叫ぶ銀時を無視し、こんなに旨い料理を誰が作ったのか、それに非常に興味を引かれた。
「お前じゃない…ということは新八くんか」
メガネをかけた若者が脳裏に浮かぶ。確かに彼は見るからに器用そうだ。
だが、それにも銀時は首を振る。
そして驚くべき言葉を口にした。
「俺にとって大事な奴が作ってくれたんだよっ!!だから食うんじゃねぇっっ!!」
なんと?
それは所謂あれか。色恋ということか。
銀時にそのような者ができるとは…。
銀時は思わず言ってしまったようで、しまった…みたいな顔をしている。
それでますます確信する。どうやらこれは本物らしい。
「隅に置けぬな。で?どんな娘だ?」
「『キャv恋バナvv』」
あの銀時が、だぞ?
何にも執着せずのらりくらりしているこいつが、『大事な』と表現するくらいだ。
どれほど本気なのか伝わってくるな。
純粋に銀時の想い人に興味を惹かれて、俺は銀時に詰め寄った。銀時は言いづらそうに口をもごもごさせていたが、手応えを感じた俺は再度問う。
すると、答えが返ってきたのは銀時からではなかった。
「トシちゃんアルよ」
声がした方を見れば、リーダーこと神楽くんが目を擦りながら起きてくるところだった。
「銀ちゃん、ヅラ、エリー、おはようアル」
「『おはよう』」
「あ、あぁ。おはよう。挨拶ができることは好ましいが、ヅラじゃない桂だ」
「トシちゃんが挨拶ちゃんとしろ、って。私、トシちゃん好きだからトシちゃんの言うことちゃんと聞くネ」
神楽くんはそう言って俺の向かいに座り、生姜焼きを食べ始める。
トシちゃん。銀時の大事な娘の名前か。
俺は真っ赤な顔で口をぱくぱくしてる銀時を無視して、神楽くんに話を聞くことにした。
「どんな娘だ?」
「んー、真っ黒な髪の白い肌の綺麗な人で、料理がうまくてすっごく優しいネ!」
「ほー」
神楽くんはずいぶん懐いているようだ。結構毒舌な彼女がここまで誉めるとは。よっぽど素晴らしい女性らしい。
神楽くんの言った言葉になぞらえて妄そ…いや、想像してみる。
…うむ、俺も好みかもしれん。