「もう寝ちまったか?」
「あぁ」
盛り上がった誕生会。チャイナとメガネは本格的に眠ったらしく、俺が応接室に戻ったときにはいなかった。
片づけが終わりひと息つこうと、俺は持ってきた日本酒とつまみをテーブルに置く。
俺たちは応接室のソファに向かい合って座って、ゆったりと酒を交わす。
穏やかな時間。
さっきまで大騒ぎだったから、急に静かになって変な感じがする。
目の前の万事屋は俺が注いだ酒を飲み、俺も万事屋が注いだ酒を飲んでて。
この空間が当たり前にあることを不思議に思った。
なんだって俺は今、こんなに暖かな気持ちになっているんだろう。
「…ありがと、な。その…旨かった」
「そうか。…よかった」
ぽつり、と呟いた万事屋の台詞に。自然笑みが浮かぶ。
安堵した。万事屋が喜んでくれたことに。素直に嬉しく思った。
「けど、煮豆がなかったよ。俺、煮豆も食べたかった」
「…無理。ここ、圧力鍋ねぇし」
「そこは気合が足りねぇんだよ。何事も気合があればなんでもできるんだぞ」
「あほか」
ったく、こういうところが万事屋だと思う。何かしら茶々を入れないと気が済まないんだろうか?
…けど、こういう言葉のやり取りは俺ららしいとも思う。礼だけとか気恥ずかしくって仕方ねぇし。
それより、俺には気になってることがあって。ほんの数時間前、チャイナたちが万事屋に渡した袋の中身だ。
あの子どもたちが自分たちの『大切な人間』に何をやったのか気になったんだ。
「あいつらから何もらったんだ?」
「あ?あーっと…これ」
俺の問いに、万事屋は財布を取り出して見せてくれた。
銀色の鈴がついた根付。ちゃりん、と綺麗な音を奏でる。
その鈴を見た途端、俺が連想したのは万事屋の髪の色。きっとあいつらもそれで選んだんだろう。ほんと、そっくりの色をしていた。
「へぇ、いいじゃねぇか。大事にしてやれよ」
目の前に掲げられたその鈴を、俺は指で弾く。ちゃりん、とまた綺麗な音が鳴る。
あいつらが一生懸命選んだんだろうと思うと、微笑ましくて仕方なかった。それをもらう万事屋の立場も羨ましいと思う。
「…じゃ、俺も」
「へ?」
驚いたような万事屋の声を背後に聞きつつ、俺はソファの裏から包みを取り出す。それを無造作に万事屋のほうに放った。慌てながらそれでもしっかりキャッチする万事屋。
また頭がついていってないような万事屋を俺は笑って、「はやく開けてみろって」と促してやった。
万事屋が戸惑いつつ包装を開ければ。
赤色のマフラーと紺色のマフラーが顔をだした。
シンプルなフリースの、同じ種類のマフラー。
まだ困惑してる万事屋に向かって、俺は説明する。
「どっちにするか迷った。だからどっちも買ってみた」
「…迷った?」
「…どっちもお前に似合いそうだったからな…。選べなかったんだよ」
「…」
「どっちもお前にやる。あとは好きにしろ。どっちも使うなり誰かにやるなり…」
多少乱暴な言い方だったかもしれない。…恥ずかしかったんだ。誰かに何かやるのって、なんだか妙に気恥ずかしいんだ。だからか無性に煙草が吸いたくなり、「煙草吸うぞ」と言って、煙草を銜えた。
煙草を吸うと幾分か落ち着いて。紫煙を吐き出しつつ、俺は手の中のマフラーに視線を落とす万事屋を見つめる。
…何か言えよ。反応しろ。