「もう寝ちまったか?」
「あぁ」
盛り上がった誕生会。お子様たちはすっかり眠って、今俺の寝床ですやすや寝息を立てている。
片づけを終えた土方が日本酒とつまみを持って台所から戻ってきた。俺たちは応接室のソファに向かい合って座って、ゆったりと酒を交わす。
…なんだか、夢みたいな光景だ。
土方が当たり前のように俺の前に居て、俺が注いだ酒を飲み、俺も土方が注いだ酒を飲んでて。
こんなにも自然に俺の傍にいる土方に、ものすごく暖かな気持ちになった。
「…ありがと、な。その…旨かった」
「そうか。…よかった」
穏やかに笑みを浮かべる土方に、俺の心臓はどっきんどっきん。
酒のせいで色づいた頬、着流しの合わせ目から覗く白い首筋や鎖骨にどっきんどっきん。
俺は目線を逸らして、つまみのさきいかを取る。…これ以上見てたら理性がもたない気がした。
「けど、煮豆がなかったよ。俺、煮豆も食べたかった」
「…無理。ここ、圧力鍋ねぇし」
「そこは気合が足りねぇんだよ。何事も気合があればなんでもできるんだぞ」
「あほか」
なんとか理性を保つためにも無茶な話を振ってみる。呆れたように、それでも反応を返してくれる土方。律儀だなぁ、とさきいかを齧りながら思った。
「あいつらから何もらったんだ?」
「あ?あーっと…これ」
土方の問いに、俺は早速財布につけたあいつらからのプレゼントを見せる。
銀色の鈴がついた根付。ちゃりん、と綺麗な音を奏でる。
「銀さんの髪の色みたい、って神楽ちゃんが気に入って。大事にしてくださいね」と新八が言ったその鈴は、確かに俺の髪の色そっくりの色をしていた。
「へぇ、いいじゃねぇか。大事にしてやれよ」
土方の目の前に掲げたその鈴を、土方は指で弾く。自分のことのように嬉しそうにしてくれる土方に愛しさが湧いた。
「…じゃ、俺も」
「へ?」
後ろを向き、ソファの裏から土方は包みを取り出す。
それを無造作に俺のほうに放ってきた。慌ててキャッチする俺。
また頭がついていかない俺を土方が笑って、「はやく開けてみろって」と促した。
だって、お前、…料理をあんなたくさん作ってくれたのに…。更に物まで俺にくれるの?
頭はまだついていかねぇけど、俺の指は包装紙を丁寧に剥ぎだした。
中から現れたのは。
赤色のマフラーと紺色のマフラー。
シンプルなフリースの、同じ種類のマフラーだ。
「どっちにするか迷った。だからどっちも買ってみた」
「…迷った?」
「…どっちもお前に似合いそうだったからな…。選べなかったんだよ」
「…」
「どっちもお前にやる。あとは好きにしろ。どっちも使うなり誰かにやるなり…」
ぶっきらぼうに言う土方。頬は酒のせいだけではない赤みが入っている…ように思う。照れ隠しのように「煙草吸うぞ」と言って、煙草を銜えた。
吐き出される紫煙を目で追いながら、俺はぐるぐると気持ちが渦を巻くのを感じた。
俺にあげるプレゼントで?2つマフラー買ったって?
どっちも似合うからって、2つ買った?
土方、お前。
…どれだけ俺を喜ばせるんだよ…