ハピバ! 【土方編T】@








「おかえりなさい、副長!」

「今回は長い出張でしたね」


屯所に、久々に帰ってきた。
8月末から10月頭まで大阪に出張していた。向こうの特殊警察の指南役として刈り出されていたんだ。
だから屯所に帰ってきたのはほんとに久しぶりで。こいつらの顔が懐かしく感じた。



俺が屯所の門をくぐった途端、わぁっと隊士たちが集まり声をかけてきた。…お前ら仕事は大丈夫なんだろうな?
鬼副長であっても、どうやらいないならいないで寂しいらしい。中には感極まって泣く奴までいる始末。バカ、泣く奴があるか…。


嬉しい、けど、恥ずかしいというか…。なんとも言えずくすぐったい気持ちになる。




「なんでェ、もう帰って来たんですかィ?」

「…総悟」

後ろからの声に振り向くと、総悟が立っている。が、問題はそこじゃねぇ!


「…お前の手に持ってるのはなんだ」

「え?これが何だかわからないくらいぼけちまったんですかィ?そいつぁいけねェ。さっさと副長職を俺に明け渡して隠居でも…」

「仕事中にだんご食ってる奴に副長が務まるかーーーーっ!!!」


こんの、バカ総悟!!!!






「おかえり、トシ」

局長室。俺は近藤さんと向かい合わせで座り、軽く礼をした。


近藤さんとも久々だ。電話はしょっちゅうしてた…というか、大半は近藤さんからの電話だ。まったく、書類のことだったら山崎だって知ってるから山崎に聞けばいいのに、わざわざ俺に電話してきやがって…。おかげで俺は「何かあったんじゃないか!?」といつも焦っちまったよ。


「ただいま、近藤さん」

俺がそう返事をすると、近藤さんが俺のほうに寄ってきて抱きしめてきた。
こうして近藤さんに抱きしめられるのも久しぶり。この人の腕の中は本当に安心する。

あー、俺は帰ってきたんだな…。



「トシがいなくて、俺は本当にしんどかった!トシはいっつもあんなに書類を書いてるんだな…。…ごめんな、俺これからはなるだけ手伝うようにするからな」

「クス…。そうしてもらえると助かるな」

任せとけ!と胸を張る近藤さん。いつまで続くやら…。


別に書類整理なんて大したことじゃない。近藤さんにはそんなことじゃなくて、もっと根っこのところでどっしり構えてて欲しいから本当はやらなくてもいいんだ。けど、本人がやる気になってるんだったら邪魔はしない。


「1カ月出張ってのはもう勘弁してくれ、って松平のとっつぁんにも言っておいた。とっつぁんもあがってくる書類の誤字脱字に辟易したみてぇで、しばらくはこんな長い出張の話はないと思う。他の雑多な仕事も大変だったろう。ありがとな」

「うん…。でも、俺は…書類とかより何より……」

「ん?」

「……トシに会えなかったのが一番きつかった」


そう言って、近藤さんは俺の身体をまた抱き寄せる。近藤さんは自分の顔を俺の胸に押し付けてきたから、その表情は見えない。さっきより強い力で抱きしめられ、ちと苦しい。
…けど、ちょっと嬉しかった。友達にこんな風に言われて嬉しくないわけがない。



「俺も、近藤さんに会えなくて寂しかったよ」

近藤さんの頭をそっと撫でながら、俺は言った。本心だ。やっぱりいつも隣にいるのが当たり前の人間がいないと、違和感というか、…心細い。
近藤さんはまっすぐ言ってくれる人だから、俺もつられて本心が口に出るんだよなぁ…。…隊士たちには恥ずかしくてぜってぇ言わねぇけど。


「トシ…」

近藤さんは顔を上げてじっと俺の顔を見つめる。そのまま近藤さんの顔がゆっくりと近付いてきたから、俺は静かに目を閉じた。



唇のぬくもりも、久々だった。





それからまた向かい合い、近藤さんは俺にすまなそうに言ってくる。

「トシ、すぐというわけじゃないが、上が休暇をとらせてくれるそうだ。1週間は休ませろってことなんだけど…」

上は何もわかっちゃいねぇな。前線で身体張ってる俺たち…しかも副長の俺が1週間も休めるわけねぇだろうが。

「わかってる、んなの無理だって話だろ?休みなんざなくたって別に…」

「それは駄目だ。慣れない土地で仕事してたんだ、かなり疲れてるはずだからな。休暇はとらせる……といっても3日間だけだが…。いつがいい?」



…別に休まなくてもいいんだがなぁ…。
でも、こうなった近藤さんは絶対に譲らない。じゃあ、ありがたく休ませてもらうか。…疲れてるのは本当だしな。


休暇の日にちは…別にいつでもいいんだが……。



と、俺が考えていると、局長室の障子の向こうから声がした。

「近藤さん、入ってもいいですかィ?」

「総悟か?いいぞ。どうした?」

総悟は「失礼しやす」と一礼して局長室に入ってきて、俺の隣に座る。


「ちょいと聞こえてきたんですが、土方さんの3連休の日にちを決めてるんですかィ?」

「…聞いてんじゃねぇよ」

「失敬ですぜィ、土方さん。俺は近藤さんに前々から土方さんが3日間休みをとることは聞いてたんでさァ」

そうなのか?と近藤さんの顔を伺うと、こっくり頷かれた。盗み聞きしてたわけではなさそうだ。
総悟が続ける。



「土方さん、休みの日は10月の9日・10日・11日にしなせェ。この3日間はちょうど会議も大きな捕り物も入ってませんし、溜まった書類もそれまでならひと段落するんじゃないですかィ?」

…吃驚した。こんな的確な提案をしてくるとは、総悟らしくねぇ。
なんか企んでんのか?


「…なんですかィ、土方さん。俺が正論言ったらおかしいですかィ?」

「あ、……いや」

俺は自分でも知らぬうちに疑わしい目で総悟を見てたらしい。
お前、日頃の行いが悪いからな…。が、だからといっていつも疑っちまうのは悪いか。


「俺は10月の9日・10日・11日がいいと思いまさァ。近藤さん、なんかまずいことありますかィ?」

「いや、俺はトシがそれでいいなら別に構わないよ」



…もちろん、俺に反論があるわけでもなく、結局俺の3日間の休みは10月9日・10日・11日になった。




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