雨降り 【土方編】@








雨は  あんまり好きじゃない


濡れると、なんか生臭いニオイが服につくし
普段は何もしなくていい髪も、弱冠まとまりが悪くなるし
気分も憂鬱になる



けれど
窓の外から眺める雨の風景は気に入ってて
結局自分に雨が当たらなけりゃいいんだな、と結論づけた



俺も大概、現金かもしれねぇ



それに、雨なんて嫌いだと言ったら
あの女性(ひと)にまた咎められちまうからな



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


その日は、松平のとっつぁんを含めた幕府のお偉いと昼食会だった。
近藤さんと俺で行ったのだが、昼間っから酒を出されて近藤さんはすっかりできあがり。
俺は仕事を理由に酒を断って、更に仕事を理由に早々に切り上げようとしていた。


「土方くん、いいじゃないか。ゆっくりしたまえよ」

「トシ〜〜〜、ノリが悪いぞぉ〜〜〜」

「いえ。局長と副長のどちらも不在という状況をあまり長いこと作りたくないので…。申し訳ありませんが、俺はこれで失礼します」


心底残念そうなお偉いさん数名と、ほろ酔い加減の近藤さん。
近藤さんをひとり残していくのは正直心配だったため、総悟を筆頭に何名かの隊士を残し、俺一人だけ料亭を出ることにした。


俺は正座をして頭を下げる。

「近藤がご迷惑をかけるかもしれませんが、どうか酒の席ということで多めに見てください」

「頭をあげたまえ。君の顔が見れないじゃないか」

「?はぁ…」

「土方くんとはもっと居たかったがねぇ。仕事熱心なのはいいことだが、羽を伸ばすことも必要だよ?そして、たまにはおじさんたちの相手もして欲しいな」

「?…はぁ」

「トシ、今度は俺の酒を飲んでくれよ〜〜。今日はゴリラにしかあげてないよ。お前に飲ませたくてせっかく持ってきたのによぉ〜〜〜」

「……わかったよ…。今度な、とっつぁん」


???
なんだか、お偉いさんたちは俺を気遣っているように見える。
なんでだ?俺、最近なんか手柄立てたっけ…?



名残惜しそうに俺を見送るお偉いさん。
近藤さんは既に夢の中の住人になってる。…しょうがねぇ局長!





料亭から出ると、出入り口のところに総悟が立っていた。にやにやと笑いながら、俺に話しかけてくる。

「お供はいりやせんかい?お姫様」

「気持ち悪ぃこと言うんじゃねぇよ…。誰が姫だ」

「あんなに庇護されてるんで、てっきり副長から姫様になったのかと…。副長の引継ぎは早いほうがいいんじゃないですかぃ?」

「…何言ってんのかさっぱりわからねぇ」


首を傾げながら言うと、総悟はあからさまに溜め息をついてみせた。…その、呆れ果てた顔がムカつく!!いったいなんだって言うんだよ??



「とにかく、護衛はいらねぇ。お前らここで待機してろ。とっつぁんも近藤さんも酔ってるから心配だ」

「…ぶっちゃけ、あんたも心配なんですがねェ………いろんな意味で」

「?自分の身は自分で守れらぁ。じゃあな。サボんじゃねーぞ」

「へ〜〜〜〜ィ」


やる気のない声に心配になるものの、総悟は近藤さんのこととなると真剣になるから、まぁ平気だろう。
ここは奴らに任せて、俺は屯所に戻ることにした。


なんだか外の空気に触れたくて、俺はタクシーも頼まずに屯所への道を歩く。

と、ほどなくして雨が降ってきた。今にも泣き出しそうな空だったからな、しょうがない。
俺は持っていた黒い傘を広げる。




生臭い雨のニオイ。
あんまり好きじゃない。だが雨が降らなければ生物は飲み水を得られず、死ぬ。
俺はいつも、『雨なんて好きじゃない』と思う度にそう言い聞かせてて。もう癖になっていた。



あの女性(ひと)の口癖だった。

“十四郎さん。雨が嫌だなんて、そんなこと言っては駄目よ。私たちは雨のおかげで水を飲むことができるのだから”



雨の度に思い出す、その言葉。
俺はその言葉を思い出しては、雨を受け入れる。
そうすると、この独特のニオイも心地よくなるから不思議だ。



あの女性(人)は、今どうしているだろうか。





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