(おまけ)沖田編







俺を呼ぶ声がする……。


団子が俺を呼んでいる……。



ってなことで、俺は今団子屋にいやす。
書類作成なんてもんは俺がする仕事じゃねぇやィ。“適材適所”っていう言葉があるだろィ?土方コノヤローに教えてやりたいもんだね。



と、俺が団子屋で団子を頬張っていると。
見覚えのある黒づくめの男が2人(コ○ンじゃねぇぜ)、こちらへ歩いてくる。


ありゃあ、近藤さんと土方さんじゃねぇか。
……俺のサボりがばれたわけじゃねぇみてぇだなァ。
真選組の局長と副長が揃って巡回たァ、ご苦労なこって。感心、感心。


あ、近藤さんが物凄い勢いでどっかに行っちまった。ありゃあ、あのゴリラ女絡みか。懲りないお人だねィ。
土方さんは…ありゃ呆れてる顔だ。あーあ、また煙草なんか吸って…。肺癌になりますぜ?つーか、なっちまえ。土方コノヤロー。



それからほどなくして、土方さんにある男が近づいてくる。

あれは、万事屋の旦那…?
なんでィ、あの不自然な歩き方は?今時コントでも手と足一緒で歩いたりしねェぞ?


旦那は初め真っ青な顔だったが、土方さんと言葉を交わすうちに表情がやわらかくなり、本当に嬉しそうに笑う。

……あらら。そうかィ、そういうことかィ。
旦那のあんな顔初めて見たぜ。
それにあの目。見てるこっちが恥ずかしいくらい優しい目で土方さんを見てらァ。

まさか旦那が土方さんにほの字とは……。
気が合うだろうなァってのは直感で思ったが、ここまでは見抜けなかったなァ。いやァ、まだまだ俺も未熟だねェ。


土方さんもずいぶん穏やかに話してる。花見の後、2人になんぞあったんだろうか?


っと、近藤さんが戻ってきた。……なんか様子が変だ。いつもの穏やかなムードの近藤さんではなく、今にも暴発しそうな空気を漂わせてる。
そんな近藤さんは2人の後ろに音もなく忍び寄って……道の往来で何してんでィ。大の男2人がくっついて、奇妙なことこの上ねぇや。

近藤さん、余裕なさそうに見えるや。旦那になんか危機感でも抱いてるんだろうか?もしや、近藤さんも旦那の土方さんへの思いを知ってる……?


そうですぜィ、近藤さん。
あのゴリラ女に現つをぬかしてる場合じゃねぇですぜ?あんたは自分の気持ちにとっとと気付くべきでさァ。

“親友”の名だけで土方さんを縛るのも、もう潮時かもしれやせんぜ?


俺は知ってますぜ?

あんたが“親友”という立場を自分に都合のいいように土方さんに教えたのを。


道場にいた頃からあんたらの距離は変でした。親友にしては近すぎて、誰もは入り込めない空気を作ってやしたよね?


初めは土方さんがあんたにべったりかと思って本気で殺してやろうかと思ってたんだが…。

真相はそうじゃねぇ。

近藤さん。あんたの方がよっぽど土方さんに……。





そこまで考えてたところで、運悪く土方コノヤローの視線が俺を捉えたのを感じた。

ちっ、気付かれたか…。お好み焼きも食いたかったんだがねィ。



しっかし、土方さんは罪作りな野郎だねィ…。ゴリラに懐かれたり、無職に好かれたり、どれだけ色気振りまいてるんだか。
というより、いい加減近藤さんとの不自然な関係に気付きなせェよ。旦那の気持ちもわかっちゃいないだろうし。……鈍感め。



「総悟っ!聞いてるのか!?」

「いや、ちっとも」

「〜〜〜〜っっ!!」

わァ。声にならないくらい怒ってるんですかィ?



そんな土方さんをキレイに無視して、俺は向こうにいる近藤さんと旦那に目をやった。

ここからじゃ声は聞こえない。


けれど。


地獄のどん底に落ちたような表情の旦那と、

勝ち誇ったように旦那を嘲笑う近藤さんが見えた。



あーあ。
旦那、気の毒に…。
近藤さん、あんた一体何を言ったんですかィ?
あんたどれだけ土方さんを独占したいんですかィ?

別にどちらを応援するわけでもねェが、少し旦那を気の毒に思う。近藤さんは土方さんのことになると人が変わったようになるからねェ……。



ほどなく、近藤さんもやってきて俺に団子を奢るように言ってきた。
俺は近藤さんが言うとおりに2人に団子を1本ずつ奢ってやる。他ならぬ近藤さんの頼みじゃあしょうがねェ。土方さんにも不本意だが奢ってやらァ。


俺は茶を飲みつつ。
ずんだを頬張っている土方さんの横顔を見た。


確かに綺麗なお人だと思う。
さらさらの黒髪に色白の綺麗な肌。
切れ長の目に埋まってるのは藍色の瞳。
何より外見だけでなくて、何ものにも折れない真っすぐな精神が人を魅了して止まないんだろう。



土方さん。

そんなあんたが俺は大っきらいでさァ。
だから俺はあんたをいじめないと気が済まないんです。
そして、それに反応してつっかかってくるあんたを更にいじめぬくのが、今のところ俺の生き甲斐なんでさァ。


別にあんたが誰とくっつこうがくっつかまいが、俺にはどうでもいいんでさァ。


ただ。

それであんたが傷ついたりして元気なくなると、俺もいじめ甲斐がなくならァ。


だからあんたには、
……泣いて欲しくねェんです。
俺以外の他の奴が、例え近藤さんでも、土方さんを泣かせるのは我慢ならねェ。

俺の一番の楽しみをとられるのだけは許せねェ。





俺は、だんだん雲行きが怪しくなる空を見ながら。

他の奴らはともかく、土方さんは元気でいるように、と。

俺の生き甲斐のために願ってみた。







END

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