一触即発 【近藤編】@






よく晴れた日の午後。

「トシ、今日は俺と見廻りに行こう?」

いつものように見廻りに行くために身支度していたトシに、俺はそう言った。


トシは驚いたように俺を見て、「そんなこと局長がしなくていい」みたいなことを言ってきたけど。
でも、たまには隊士たちの仕事を直に経験したり町の様子を見たりすることは、とても大切だとなんとなく思うんだ。

そう言ってやると、トシは感心したように俺を見つめてきた。
え?これって偉いこと?トシ、俺のこと見直した?
ちょっと嬉しい。


「じゃあ、行くか」

トシはその綺麗な顔でふわりと微笑むと、俺の右隣に立って歩き出す。
仕事、なんだが…こうして2人きりで外に出るのは久しぶりで。
なんだかデートみたいだと、俺はこっそり思った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


その1時間後。

「あ!お妙さんだ!!お妙さ〜〜〜〜〜〜〜〜んっっ!!!」

俺は“お妙さんセンサー”に反応を感じて、仕事中だということもすっかり忘れて全速力で走った。

だって、お妙さん!お妙さんの反応が確かに…!!

最近会議が続いてなかなか店のほうに行けなかったし、すっかりお妙さん不足だった。


その美しい顔(かんばせ)をぜひとも見たい〜〜〜〜〜!!!!


俺の“お妙さんセンサー”は寸分の狂いもない。ドラ○ンレーダーだってびっくりだ。
数百メートル先の大江戸マートから、買い物袋をぶら下げたお妙さんを発見する。


あぁ!!今日もなんてお美しい……!!


「お妙さーーーーーんっっ!!お久しぶりですっっ!!あなたの勲でぶふぉぉぁぁぁああ!!!」

「ふんぬうぅぅぅっっ!!死ねぇぇぇええ、脱走ゴリラァァァァアアア!!!!」

か、買い物袋に何が入ってるんですかぁぁぁ!!めっさ ガンッ て音がなったんですけどぉぉぉおお!!


なんか金属的なものに思いっきり頭を殴られた俺は、そのまま地面に伏した。
ふ……。そんな、恥ずかしがり屋なお妙さんが……、す、好きです……。



そのまま少し、俺は気絶した…らしい。
気付くと、お妙さんはいなくて。代わりに野次馬が俺を取り囲んでいた。
俺はむくっと起き上がると、「彼女、恥ずかしがり屋で…vv」なんて言いながらその場を離れる。

今度お店に行きますからね!!絶対にあなたのハートをいただいてみせますから!!
俺は再度固く決意した。



うー、しっかし痛い。幸い頑丈な俺の頭には傷一つ・こぶ一つついてないけど。
帰ったらトシに撫で撫でしてもらおうっと。


そこまで考えてはたと気付く。
あれ?俺ってお妙さんに会うまで……トシと見廻りの真っ最中だったんじゃね?

サーーーーーっと血の気がひいた。
…やばい。下手すりゃトシにも怒られて殴られちゃうかも…。
瞳孔を開いて怒るトシの顔が容易に想像できて、ぶるっと身震いした。…やっちまった……。


俺は急いで、最後にトシと別れたところまで戻った。






そして戻ってみて。
目に飛び込んできた光景に、俺は驚愕して目を瞠った。



優しげに笑うトシと、
いとおしげにトシを見つめる銀髪の男…銀時とのツーショット。



あんまり自然にその光景はあって、俺の頭の中で警鐘がガンガンと鳴り響く。


しばらく談笑していた2人は、そのまま並んで歩き出した。
違和感なんて、そこにはこれっぽっちもない。ごくごく自然な光景だった。



銀時とトシの関係は、いつの間にそんなに自然になった?

互いを認め、相手が自分の隣にいることを自然だと言わんばかりで。…トシが、自分の隣に銀時がいることを許しているようで。


だって、俺は知ってる。

トシは、俺以外の奴に自分の左側を歩かせない。

それを俺は指摘したことはないし、トシも意識してやってるわけではないと思う。心臓がより近い左側を信用できない相手の近くさせるのは危険だということを、トシは無意識のうちに察しているのだろう。

だから、俺以外の奴の右隣を歩いているのを見たことがないのだ。絶対に自分の左側を見せないように斜め後ろか、隣だとしても相手の左隣を歩く。



なのに、この光景は何だ。


トシは、

ごく自然に、

銀時の右隣を歩いている。





俺は。
それ以上この光景を見ていたくなくて。

後ろから近づいて、いきなりトシを自分の片腕に抱き込んだ。

トシの細い両肩は、容易に片腕だけで捕まえられる。その心地よい低めの体温と、いつものトシの煙草の匂いと僅かに香るトシ自身の匂いに、やっと頭が冷静になった。



大丈夫。トシは俺のだ。

俺がこんな風に後ろから近づいていっても、トシは全く気付かない。

これが他の奴なら、気配に敏感なトシは刀を抜いて威嚇するだろう。けれど俺だけには無防備になって、こうして後ろから近づいても全く気付かないんだ。

現に全く気付かなかったトシは、いきなり後ろから回された腕にびっくりしてる。こちらに首だけ向けて上擦った声で俺の名を呼んでる。



大丈夫。トシは俺のものだ。

トシが銀時に自分の左隣を歩くことを許したからって、それが何だ?
俺とトシの絆に、それは毛ほども影響なんてしない。
するはずがないんだ。




「ごめんな、トシ。見廻り再開しようか?」

そう、トシに言いながら、俺はいつもの情けない笑顔を顔に貼り付かせる。少しだけトシが不思議そうな顔をした。…まいったな。結構焦ってしまった分、笑顔にちょっと失敗してしまったらしい。




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