一触即発 【土方編】@






よく晴れた日の午後。

「トシ、今日は俺と見廻りに行こう?」

いつものように見廻りに行くために身仕度をしていた俺のところへ近藤さんが来て、そう言った。


俺は驚いて、近藤さんの顔を見ながら尋ねる。

「え?斎藤は?」

「代わってもらったんだ」

にこにこと、近藤さんは笑っている。俺は困惑しつつ、「けど」と言葉を続けた。

「…見廻りは、局長のあんたがする仕事じゃねぇよ。あんたは屯所に…」

局長はどっしり構えていればいい。そういう細々とした仕事は俺たちで十分だし。


けれど、近藤さんは首を振る。

「いや、たまにはそういう仕事もするべきだと思うんだ。しっかり町の様子も見ておきたい」

「近藤さん…」


この人は、上に立つべき天性の素質がある。
普段頼りなさげに見えるときもあるが、やっぱすげぇや。
俺は軽く感激して、2人で屯所の門をくぐった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


その1時間後。

「あ!お妙さんだ!お妙さ〜〜〜〜〜〜〜〜んっっ!!!」

「あ、」

止める間もなく、近藤さんはものすごいスピードで走っていってしまった。



……俺にはお妙がどこにいたのかなんてさっぱりわからなかったが、近藤さんのセンサーには反応があったんだろうな。ほんとすげぇ……。

…だが、仕事中にいなくなったのは許せねぇ。帰ってきたら怒鳴ってやる。
ほんの1時間前に見直したばっかりだったのに……見直した俺が馬鹿だった。


俺は溜め息を吐きつつ、懐から煙草を取り出した。くわえて火をつけ、紫煙を吐き出す。
あー、うめぇ。
くわえ煙草のまま見廻りを続けようと歩き出そうとした。



と。


「お、多串く〜ん。き、奇遇だね…」

「…万事屋?」

見れば、万事屋が俺の方に歩いてくるところだった。なんか久々に顔を見た気がする。あの花見以来か?
…しっかし、ずいぶんぎこちない歩き方だな…。両手両足一緒だぞ?
顔色も…少し青い。具合でも悪いんだろうか?


「なぁ、どっか悪いのか?」

「いやっ?別にー……」

声、裏返ったぞ?
……変な奴。


なんか用か?仕事中なんだが、と聞くと、あ〜、う〜〜ん、とはっきりしない返事が返ってくる。
いったい何だっていうんだ?
少しの沈黙ののち、万事屋が漸く口を開いた。


「あ、あの…。花見の翌日の…。お、覚えてる?」

「あ?あぁ、まぁな」

ひょっとしないでもアノ言動だろう。嫁に来いとか抱きついたりだとか…。
思い出して、俺は恥ずかしさと僅かな怒りから、ほんのちょっとだけ顔が熱くなった。


万事屋が慌てたように話を続ける。

「い、いやさぁ、銀さんちょっとまだ酒が残ってたみたいで…。…その…、…悪かったな……」

「……あ。…き…気にしてねぇし…」

俯いてぼそぼそ話してくる万事屋がなんか気の毒になって、俺はそう言ってやった。いくら酒に酔ってたからってあんな台詞を男に言ったなんて、素面に戻ったとき焦るだろうな…。俺が万事屋の立場だったら憤死ものだ。




「ほんと?…よかった……」

すっごいほっとしたような顔をして、万事屋が微笑む。
ああ、さっきのは緊張からくるぎこちなさだったのか?顔色もだいぶ普通に戻ってる。
そう気付いたらなんだか可笑しくなって、俺も笑った。



「あ、あのさ。また飯とか作ってくれない?神楽がお前の料理すっごい気に入っててさ。新八も食べてみたいって言ってたし」

「眼鏡も?…そうか。生憎非番の日がなかなかつくれなくてな…」

あんな素人料理をそこまで気に入ってもらえるとは……。俺は素直に嬉しいと思った。
万事屋が続ける。

「お、俺も…またお前が作ったオムレツ食いたいし…」

「!…そ、そうか……」

…まいったな。ちょっと照れる。俺は誤魔化すように短くなった煙草を携帯灰皿に捨てた。
非番がいつになるかわからないが、また作りに行ってやるよ、と約束してやった。
嬉しそうに笑う万事屋に、俺もつられて笑う。



「で、今日は一人で見廻り?」

「……いや、近藤さんと一緒だったんだが、……お妙を発見したらしく、」

「あ〜…。殴られに行っちゃったんだ」

「…そういう言い方をするな」

実際そうだろうけどな。あれは近藤さんなりのアプローチなんだが、傍目から見るといき過ぎてて。結果彼女の怒りをかってしまうのだろう。


「……多串くんは?休憩とかしないの?」

「あ?…見廻り始めてまだ1時間しか経ってないんだ。休憩なんかまだできない」

「ゴリラを待ってるんじゃないの?」

「ゴリラじゃない!きっとしばらく帰ってこないだろうから、俺一人だけで見廻ろうと思ってたんだよ」

ったく、多串くんといいゴリラといい、こいつの勝手なネーミングはほんとに腹が立つ。
俺が睨んでいると、万事屋は何か考えるように逡巡したのち、また俺に話しかけてきた。


「この間のお詫びにコーヒーくらい奢るよ…?ちょっと休憩しない?」

これはさすがに驚いた。万年金欠病のこいつが、人に奢る?


「……お前、人に奢る以前に、ガキどもにちゃんと飯食わせてやってるんだろうな?チャイナが『いつも腹減ってる』って嘆いてたぞ?」

俺は疑問に思って尋ねてみた。俺への詫び以前に従業員の給料の方が大切だろ?特に、成長期の子どもにはきちんと飯を食わせてやらねぇと、しっかりとした体にならねぇじゃねぇか。


そう言ってやると、万事屋は一瞬驚いたような顔をしてから、すごい嬉しそうな顔をして「大丈夫!ちゃんと食わせてやってるから!」と言った。
万事屋の表情の変化についていけなくて俺の頭の中を疑問符が埋めたが、ちゃんと食わせてんならいい、と返事してやる。


「休憩、する?」

「……近藤さんが戻るまで、な」

万事屋は本当に嬉しそうで、なんか犬が飼い主に褒められてしっぽを振ってるみてぇだった。
何がそんなに嬉しいのかさっぱりわからないが、なんだか俺も悪い気はしなくて、自然頬が弛む。
俺たちはそのまま近くの喫茶店へ行こうと歩き出した。




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