僅かな接近 【近藤編】@







トシは誰かと話していた。

ここから見えるトシの横顔。穏やかに笑っている。俺の好きな、トシの笑顔。

でも、俺以外には見せないはずなのに、トシは俺じゃなくて違う奴に惜し気もなく見せている。


トシ、駄目だよ。
俺以外の奴にそんな顔見せるなよ。


トシは俺の横にいなきゃいけないのに、目の前のトシは俺に見向きもしない。
俺以外の誰かの横で嬉しそうに笑っている。


「トシっ!」
声を枯らすほど叫んでるのにトシは気付かない。

俺は苛立ち、トシと談笑する相手に目を向けた。


誰だ、俺のトシに…っ!

そこにいたのは、……。





気が付くと、俺の目の前には見慣れた天井があった。

あぁ、屯所の俺の部屋だ。ぼんやりと思った。

あぁ、さっきのは夢か。嫌な夢だ。トシが俺から離れるなんて、ありえない。
俺以外に心を許すなんて、ありえない。

そこまでは覚えているのに、その俺の代わりにトシの横にいた人物は思い出せなかった。確かに見たことがある奴だったのに…。


俺は思い出すことを諦め、もう一回寝てお妙さんのいい夢でも見ようと布団に潜り込んだ。

そのとき、とたたたと廊下を走る音がこちらに近づいてきて、障子を挟んで廊下側から声がした。


「局長、起きておられますかっ?山崎ですっ」

時計を見れば、もう9時過ぎていた。
ん、これは完全な寝坊だ。
しかし、いつもはこうなる前にトシが呆れた顔して起こしにくるはずなのに……?トシも珍しく寝坊でもしたんだろうか?


「あぁ、今起きた。すまん、寝坊してしまったようだ」

身体を起こして山崎に声をかける。山崎は慌てた様子で「失礼しますっ」と入ってきた。


「局長、頭はまだ痛みますか?」

「え?頭?何で?」

「あ、…いえ、大丈夫ならいいんです」

「???それより、トシは?今日は起こしにこない……」

「あ!そうだ、それより大変なんですっっ!」

「???」

俺は俺の頭を心配する山崎の労りの言葉に疑問を感じながらも、とりあえず「大変」な事態を聞く。



「副長が行方不明なんですっ!」

瞬間、完璧に目が覚めた。

「えっ!?行方不明ってどゆことっ!?」
トシ、トシが?行方不明っ!?

「昨日花見に行きましたよね?昨日の夜から誰も副長の姿を確認してなくて……。
今朝も総出で探してるんですが、どこにもいないんですっ!
副長は午後からの仕事なので私宅かと思って行ってみたんですが、そこにもいないんですっ!」

「け、携帯も繋がらないのかっ?」

「それが……屯所の副長室に置いてあって……」


さーっと血の気がひく。


「副長が誰にも居場所を告げずにいなくなるなんて、今までなかったですよっ!
もしや局長なら何か聞いてるのではと思って………」

最後の望みとしてここに来たらしい。
(というか、寧ろ初めに聞くべきなのだろうが、局長が昨日から気絶していたのでみな遠慮していたようだ)


「………」

「……その顔は、き、聞いてないんですか?」

俺はこくっと頷く。


さーっと2人同時に顔から血の気がひいた。



「トーーシーーーっ!!!」


俺の絶叫が屯所中に響いた。



「あ、近藤さん。おそようございます」

「あ、すみません……。じゃなくてっ!総悟っ、と、トシがっ!トシがっ!」

「ちったァ落ち着きなせィ。あの人だって子供じゃないんですぜ?」

「し、しかしだなぁ…」

俺が慌てて隊服に着替えて大広間に出ると、栗色の髪の青年、総悟が俺に声をかける。
総悟は相変わらずこんな事態だというのにひょうひょうとしている。


「まったく、年頃の娘でもあるまいし、無断外泊くらいいいでしょうに」

「いやっ!だめだよっ!」

「そうですよ!副長のこと心配じゃないんですかっ!?もしかしたら攘夷志士の奴らに……」

「おー、そりゃ好都合でィ。いや、手間が省けた。これで副長の座は俺のモノでィ」

「あんたどんだけひどい人なんだぁーっ!」

「……っ、し、真選組全員集合っ!トシをはやく、はやく見付けだせーっ!!!」


俺はもう叫びまくっていた。だって、あんな綺麗なトシが、攘夷志士に殺られたなんてなったら……。想像するだけで狂いそうだった。
なんでもいいからはやく、はやくトシを俺の隣に連れ戻してきてくれっ!


「近藤さん、あんたが命令せずとも皆勝手に捜索してまさァ。ったく、皆土方さんに甘くていけねェ」

「もう…っ。隊長は副長が心配じゃないんですか!?あの人がこんな風に無断でいなくなるなんて、初めてのことなんですよっ!?」

「道場にいた頃はそれが普通だったじゃねーかィ。あの一匹狼気取りは誰とも群れなかったぜェ?」

「今は、あの人は真選組副長ですっ!何か不測の事態につかまる可能性が昔より高くなってるでしょうがっ!」

「だから、好都合……」

「あんたって人はーーーっ!!」


俺はそんな二人の会話を聞きつつ、うろうろしていた。いても経ってもいられなかったが、どこにトシが行きそうか具体的に一個も思い浮かばなかったから動こうにも動けない。


「近藤さん。そんな、動物園の徘徊するゴリラの真似なんざしなくていいですぜィ」

「えっ!?俺、そんなモノマネしてないんですけど…」

「俺ァ、土方さんの居場所に心当たりがありやす」

「「えっ!?」」

俺と山崎は同時に驚きの声をあげた。





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