僅かな接近 【土方編】@






俺は、近藤さんの横にいた。

相変わらず近藤さんは優しくて、一緒にいるのが楽しかった。

明るい縁側に出て、2人で笑い合う。
そんな風に穏やかに談笑してると、隣に人の気配を感じた。横を向くとそこにいたのは………。





ふと、意識が上昇するのを感じた。ここが暖かな縁側じゃないことに気付く。

なんだ……夢だったのか?さっきの近藤さんの豪快な笑い声も優しい笑顔も、今は靄がかかったようになってうまく思い出せない。
そして、自分の隣には近藤さん以外の人物がいたような感じがしたのだが…。だめだ、ますます思い出せない。

急に肌寒さを感じて身体をまるめた。畳の上だ、ちりちりと頬が痛かった。布団に寝ずに俺はなんでこんなところで寝ているんだ?布団で寝ないと……と思ったが、思うだけで身体は動かず目を開けることもできない。ただただ身体がだるいし、ただただ眠かった。

もういい、このまま……と意識を手放そうとしたところで、なんだか甘い匂いがした。と同時にふわり、と身体が浮いた気がした。
もう俺はそのとき虚ろで、夢と現実を彷徨っているような状態だったからよくわからない。

わからないまま、冷たいところに下ろされて条件反射で身体が反応する。それでも動けなくてそのままでいると、身体を何かに包まれた。

……漸く俺は、自分が布団の中にいることを理解した。


誰かが俺を布団に寝かせてくれたのか?屯所内でそんなことしてくれる奴。
……正直、ひとりしか思いつかなかった。


…近藤さん……か?


一言礼が言いたい。なのに俺の身体はさっぱり動かなかった。弛緩しきってる。
理由はわからないが腹ただしい。


一人で足掻いていると、ふわりと甘い匂いとともに優しい手が俺の髪の毛に触れてきた。
その手つきは本当に優しくて、気持ちが良くて。けれど、どこかぎこちなかった。

俺は、疑問を感じる。近藤さんはこんな触れ方はしない。もっと滑らかに、上手に触れてくる。
それに、この甘い匂い。近藤さんは男臭い匂いはしても、甘い匂いなんてしない。


誰だ……。
誰でもいい、礼を………。

俺はなんとかして重い目蓋を持ち上げる。


そのとき、俺の目におぼろげに映ったのは。



月明かりに輝く、揺れる、綺麗な銀糸。



だから思わず口に出たんだ。言おうと思った礼の言葉ではなく、この親切な人の名を尋ねる言葉ではなく。



「ぎんいろがきれいだ」と。



それが伝わったかどうか、俺がしっかり言えたか、それはわからない。

次には俺は意識を完全に手放してしまったから。

でも、綺麗な銀糸を見て、俺は何だか得をしたような気持ちになったんだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



目を開けると。見慣れない天井が見えた。



(屯所じゃ…ない?)



俺は驚いて起き上がった。
と同時に頭に鈍い痛みが走る。
うっ…、と頭を押さえながらも、どこだここは、と頭の中はフル回転だった。

周りを見渡すと、やはり屯所内ではない。俺の私宅でもない。民家か……?でも何で自分がここにいるんだ?

ぐるぐると、俺は昨日のことを思い出そうと必死だった。
昨日は……そうだ、花見だった。当直の奴らを残し、真選組総出で花見に出掛けたのだ。

その花見で、なぜか万事屋の奴らと出会い、なんだかんだで結局ともに花見をしたのだ。酒をしこたま呑んだ気が……そうだ、あのいけ好かない銀髪野郎と呑み比べになって、そして……。


俺は青くなった。それ以降の記憶が全くなかったのだ。
マジかよ、不覚だ……酒に呑まれるなんざ士道不覚悟だ。こちとら不逞浪士どもに睨まれてる立場だというのに……。そんな醜態を曝すことは殺してくれと言うのと同じだ。


しかし、マジでここはどこだ?首は繋がっているし、特に拘束もされていないし、自分の愛刀も手の届く位置の壁に立て掛けてある。不逞な輩に拉致られたわけではなさそうだ。
俺は漸く緊張をといた。


俺は痛む頭を抱えつつ、それでも動けないくらいひどくもなかったため、起きることにした。

昨日は花見だったが、今日は午後から仕事だった。
一先ず俺はこの家の主人を探して説明を求めることにした。こうして布団に寝かせてくれたんだ、悪い奴ではないのだろう。布団を畳み、押し入れへしまう。


襖を開けると、応接室だろうか…広い空間があった。そして誰かの鼾が聞こえてきた。その部屋のソファからのようである。

この親切な人は、俺に布団を譲って自らはソファで寝ていたのだろうか?そこまで赤の他人に施すなんて…とソファを覗き込んで俺は驚愕した。




そこで毛布にくるまって鼾をかいていたのは。
やる気のない万事屋の、
坂田銀時だった。





もう固まった。思考も身体の動きも固まった。

なんでこいつが?

意識のない俺をわざわざ自分の家まで連れてきて。
わざわざ布団に寝かせ、自分はソファでまるまって。

なんでこんなこと、こいつが俺に?


もう驚きすぎて、俺は万事屋を起こすこともせず、ただ馬鹿みたいにそこにつっ立っていた。





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