あの日。
告白して、恋人ごっこして、幸福の絶頂に登ってから。
まさかの事実に一気に落ちて頭が真っ白になって、そして。
あんなに大切にしたいと思っていた子にひどいことをしてしまった。
最低最悪のあの日から、数日経ったような気がするけど。
俺の心は相変わらずあの日に囚われたままだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
なんも、する気が起きない。
新八にも神楽にも心配されてるのはわかってんだけど、どうしてもダメだった。
…自分への嫌悪感でいっぱいで、どうしようもなくて。
お妙にしばらく2人を頼んだ。
あの日。
俺が感情に任せてあの子にキスして、勝手な思いをぶつけて、力任せに抱きしめて。
それでも土方が何の反応も示さないから悔しくて、またキスしようと顔を見たら。
声も出さずに涙をこぼしている土方がいた。
それを見て、
俺が傷つけちまったんだ、って一気に冷静になって。
逃げ出すように土方の部屋を出てきてしまった。
…ヤリ逃げ以外のナニモノでもねぇ。
土方…どうしてっかな…。
つか、どこまでボケてんのあの子。なんで親友だからって理由でゴリラと抱き合ってんの、キスしてんの!
…あー…、でも……だからって俺がキスして抱きしめていい道理はねぇわな…。
こんな感じで、思考は堂々巡り。
怒りと後悔を交互に重ねて一切前に進まない。
つうか、何より俺が怒りをぶつけたいのは。
「万事屋、いるか?」
…来ると思ったよ。
壊れるかと思うぐらいの強さで叩かれた玄関の戸。
いつもの穏やかな口調を装っているけれど、隠れきれてない怒りのオーラ。
目なんて、完全にイってる。
そこにいたのは、私服姿の近藤だった。
「よぉ、ゴリさん。なんか御用?」
「表に出ろ。少し付き合え」
俺は、少しだろうとなんだろうと、お前と付き合いたくないんだけど。
あ、それはお前も同じか。うわ、同じ考えとかほんとヤダ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夕暮れ時。赤く染まった川辺は普通なら何か感情が動かされるような風景だろう。
今はまったく何も感じない。何かを感じるような余白が、今俺の心にはない。
おそらく目の前の男も同じだろう。
「覚えてるか、銀時?ここは、俺とお前がお妙さんをかけて勝負したあの場所だ」
「…さぁ、そんなこともあったっけなぁ…」
「お前から渡された木刀がポキっと折れて…。まったく、めちゃくちゃな奴だと思ったな」
「んな昔話するために俺を呼んだわけ?そんなに俺、枯れてないんですけど」
近藤の足が止まる。俺もそれにならった。
「まさか、またお前と大切なものをかけて争うはめになるとはな…」
振り返った近藤の顔は、今まで見たことのない恐ろしい表情だった。
そこにあるのは怒り…それしか感じてないって顔。
普段ボケてても、さすがあのでかい組織の局長なだけある。
その発する殺気のでかさに、気が引き締まった。
つか……ムカついてきた。
「は?お前が怒る権利あんのか?騙してたんだろ?」
騙してた、その言葉に近藤が怒鳴る。
「黙れ!お前に俺と…トシの、何がわかる!」
近藤が抜刀する。俺も木刀を構えた。
「俺はトシと、ずっと一緒にいた!トシの幸せには俺が必要なんだ!その幸せを、お前は、ポッと出のお前が粉々に壊したんだ!!」
「…てめぇは本気で言ってんのか?」
「当たり前だ!トシは、トシは幸せそうに笑ってたんだ。ずっと俺の隣で笑ってたんだ」
ふざけんな。
そんな身勝手な幸せがあるか。
近藤が作り上げた虚像の中で展開していた、偽りの幸せだろ。
そんなんだったら。
「お前が押し付けた自分勝手な幸せなんざ、木っ端微塵にしちまったほうが土方のためだろ…」
「!…なんだと?」
「土方はそんなこと望んでなかった、って言ってんだよ!」
「キサマがトシを語るなっっ!!」
激昂した近藤に一気に間合いを詰められ、刀が振り下ろされる。木刀で払ってから右方向へ移動し、体制を整え木刀で腹部を狙う。束で防がれ、頸動脈を切りつけられそうになって、しゃがみ足払いをかけた。転ぶ近藤にめがけて木刀を振り下ろすと足で防御され、上半身が泳ぐ。…さすが、バカ力。後ろに飛んで、間合いを取りなおす。
近藤が身体を起こし、刀を構えなおした。俺も木刀を強く握りなおす。
怒りで真っ赤になってる近藤。何を言っても通じないと頭の片隅で思ったが、それで口を閉ざすことができるほど俺も冷静ではなかった。
だって、きっと土方は。土方は、近藤のことを。
「いい加減、土方を自由にしてやれ。てめぇの狭い世界だけに閉じ込めておくんじゃねぇよ。土方は…」
「黙れ!黙れ黙れ!!トシは、あの頃から俺のなんだ!!」
…クソゴリラ…何サマのつもりなんだよ、畜生が!!
近藤のあまりの暴言に、かろうじてあった冷静さがどっかに行った。
一瞬だけ、思ったのは。また土方泣かせちまうかも…ってことで。
どこまでも俺の頭はブレないな、って苦笑いしちまった。
続