〆切明けの水曜日。
たまには気分転換しよう、と一人街に繰り出したのが昼過ぎのこと。

本屋服屋雑貨屋文具屋…久しぶりの買い物とあって色々な店を見て回り気が付けば空はすっかり茜色に染まっていた。

今日は中井さんも福田君もいないし新妻君の食事は作ってきたからまだ大丈夫、と一人頷き目の前の絵の具を手にとって眺める。

基本的に色塗りはデジタルかコピックだけど水彩にも興味がある。


「あれ?」


そんなことを考えていたらふと聞き覚えのある声が聞こえ顔を上げた。


「やっぱり名字さんだ」


そう言ってこんにちは、と頭を下げるのは二日間だけ新妻君のところでアシスタントをしていた真城君。


「久しぶり。学校帰り?」

「はい」


真城君の手にはホワイト。
あぁ、画材を買いに寄ったのか。

初めて見る制服姿に若いなぁ、なんて呟く私と彼の年齢差は三歳。
ま、まだまだ私も若い、はず。

そういえば新妻君、家に居たけど彼は学校じゃないのだろうか。
明日小一時間程問い詰めてみようと思う。


「サイコー、筆ペンってこれだよな…ってあれ?」

「シュージン」


隣の棚からひょこっと現れた"シュージン"と呼ばれた眼鏡の少年は私の姿を見て首を傾げた。

サイコーとシュージン…面白い呼び名だ。


「亜豆というものがありながらナンパかよサイコー」


にやにやしながらそう言う"シュージン"君にちげーよ!と返す真城君。

あぁ、懐かしき高校生のノリ。


「ほら、前にエイジ所でアシスタントしたときに会ったって言った…」

「―――!ま、まさか高月先生ですか!?」


バッと此方を向いて興奮気味に言う"シュージン"君に小さく頷く。
もしかしてこの子が真城君の言っていた例の相方君なのだろうか。



ここじゃあれだから…とファミレスに場所を移し一息吐く。


「えっと…改めまして高月凌こと名字名前です」

「サイコー…じゃない、真城と組んで原作書いてる高木秋人です」

「あ、やっぱりそうなんだ。
この世は金と知恵読んだよ。
高校生にあんな話書かれちゃ立場ないなぁ」


運ばれてきたアイスティーを飲みながら茶化したようにそう言って笑えば「そ、そんな、俺なんて全然…!」と言いつつ満更でもなさそうな高木君。

彼はなかなか素直な子のようだ。


「高月先生の本全部持ってるんですよ。エニグマとか屍越えたとか…コミックも買いました!」

「うわー、ありがとう。どうしよ照れる…」


そんなキラキラした目で見られるような人間じゃないんだよ本当…


「俺もシュ…高木に借りてコミック読みました。結局漫画も名字さんが描いたんですね」

「うん。編集部の強い推しで…でも漫画初心者だから漫画家さんにネーム形式に直してもらったから本当に絵くらいしかやってないけど」

「いや、絵とか凄い綺麗で…」

「あは、ありがとう」


絵をほめられるのは素直に嬉しい。


「あ、そろそろ帰らなきゃ…」


そう言って席を立つ。


「二人はゆっくりしていきなよ。まだ飲み物残ってるでしょう?」


一緒になって立ち上がろうとした二人を制しそう言う。


「あ、伝票…」

「お姉さんの奢りってことで。
大した額じゃないけど」


じゃぁ、と二人に告げてレジで会計を済ます。

なんというか若者にパワーを貰った気がする。




「優しい上にかっこいい…」

「すげー…俺更にファンになったよ」



私が去った後そんな会話がされたなんて知らない私は上機嫌で家路を急ぐのだった。



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ぐだぐだ…
リクエストありがとうございました!


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