よいしょ、と荷物を持ち上げトボトボと歩き出す。
安売りだからとつい買い込んでしまった食料類は双子の兄によって数日も待たない内に消え去ってしまうだろう。
体の大きい彼はそれだけよく食べる。だからこうして週に二回の大安売りの日に大量に買い込まなきゃならないのだけど、今日は流石に買いすぎたかも知れない。
けれど安かったのだ。とても、とても。明日が休業中だからと新鮮さと安さが売りのスーパーがいつもより更に。
家の生活費は双子の兄が掛け持ちしまくったバイトの給料で賄っている。
私が働こうとしても彼はそれをいやがるから。だから、私に出来るのはその決して多くない生活費をやりくりするだけ。
そのためにタイムセールと言う名の戦場に飛び込むことも、こうやって大安売りで買い込んだ沢山の荷物を持つことだって苦じゃない。そう言い聞かして家路を急ぐ。
「でも、重い…」
苦じゃない。苦じゃないけど重いものは重い。
少しだけ休憩…と荷物を下ろし近くのガードレールに腰掛けひと息つく。今日も、暑い。
俯いて汗を拭う私に光を遮断するようにかかった影に顔を上げれば…ああ、嫌な予感。
「東条くんの彼女みぃつけたー」
ひい、ふう、みい、…5人。
明らかにガラが悪い5人組が私を囲むように立っていた。
「…何の用ですか」
聞かなくてもはっきりしている。どうせ兄に喧嘩売って返り討ちにされたから逆恨みして私のもとにきた、そんなところだろう。いつものことだ。
「君には恨みはないんだけどさぁ、」
「ちょーっと君の彼氏に恨みがね?」
「ダイジョーブ、痛いことはしないから」
頭の悪そうな話し方に思わず舌打ちをしたくなる。
「残念だけど、私は彼氏はいませんが?」
「またまたぁ、知ってるんだよぉ?
―いいからちょっと面かせや」
へらへらした顔から一転、凶悪な顔に変わった男の顔を思い切り蹴り上げ荷物を持って走り出す。
「くそ…!逃がすな、終え!」
荷物が重くて思うように走れない。
何かに足をとられ転んだ私を囲む男達。
怒り狂った男の顔
まっすぐ伸ばされる腕
逃げ道は、ない
ああ、絶体絶命…
「そこまで」
そんな私達の間にすいっと入り込み男の腕をガシリと掴むその人、は
「庄次君!」
後ろに流した髪
小さなサングラス
兄より少しだけ小さな、けれど私より30cm近く高い身長
兄が一番の信頼を寄せる人物の一人、相沢庄次君。
男達は庄次君に驚き逃げていった。
情けないやつらだ。
「大丈夫ですか?」
「うん。ありがとう、助かったよ」
彼は私に敬語を使う。同い年だし、別に偉い人間でもないんだからやめて欲しいと言っても東条さんの妹だから、と聞いてくれない。
「向こうのリーダー格の顔面蹴り上げて逃げたんだけど荷物が重くて」
「凄い荷物ですね」
「いつものね、スーパーが大安売りだったの」
彼の差し伸べてくれた手を借り立ち上がる。彼は散らばった荷物をぱぱっと集めそのまま「送りますよ」と言って歩き出してしまう。
「あ、荷物!私も持つよ…!」
「いいからいいから」
「ええ…でも…」
こうなったら絶対折れてくれないのは今までの経験でよくわかっている。
「…じゃあ、お願いしマス」
そして結局私がおれることになるんだ。
「お礼に夕飯食べていってよ。今日は里芋の煮物とねー、」
ひょこひょこと彼の隣を歩きながら指折りしつつ夕飯のメニューをあげていく私に庄次君は「そりゃ楽しみですね」と笑う。
沈みかけた夕陽が、とても綺麗だった。
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相沢さんの口調が迷子…