締め切りギリギリに原稿を上げすぐにここに来たたという彼はすっかり窶れていて修羅場中の食事がいかに杜撰なものだったのかも容易に想像できた。

部屋に来るなりぐったりとソファーに沈み込んだ彼…福田君にコーヒーの入ったマグカップを差し出し自分もその隣に腰掛ける。


「お疲れ様」

「おー」


疲れきったその姿に苦笑しながらもそんな状態でも会いに来てくれたことを嬉しく思う私は思いの外彼に惚れてしまっているらしい。

福田君と付き合いだしたのは二週間前。なんとなく、酔った勢いで告白され酔った勢いで頷いた。
それでも彼が本気だったのは伝わったし私も彼を好きだったわけだからこんな始まりも自分たちらしくていいと思う。


「ご飯は?」

「食った…けどなんか食いてぇ」

「焼おにぎりはどうでしょう」

「食う」

「作ってくる」


うあー、と奇声をあげる福田君に背を向けて焼おにぎりを作るって福田君の元に持って行く。


「あのよー」

「んー?」

「…雄二郎に言うか?」

「あー…、面倒だよね」


雄二郎に言ったらどうなるか目に見えている。発狂か、激怒か、呆然とするか、…なんにせよ面倒だ。


「後新妻君とか?」

「新妻君に言ったら雄二郎にバレるよな」

「うーん。確かに」


こてん、と福田君の肩に頭を乗せてみる。こうして甘えられるようになったのは最近になってからだ。やっぱりそれなりに勇気がいる。けど、安心するから不思議だ。


「黙っててもそのうちバレるんだからそれまで黙っててもいいんじゃないデスかね」

「だな。つーかあれの新刊読んだか?」

「読んだ。あれヤバい。展開がさー」


私達の会話は大抵漫画の話、女の子の話か、雄二郎や新妻君の話か…色気の欠片もない。それを担当の洋子さんに言ったら女の子の話で嫉妬しないのかと言われた。
嫉妬、ねぇ。


「…そういえばあの主人公の側近かっこいいよね」

「あ?」

「渋くてさ、大人ーって感じ。すっごいかっこいい」


私の好みと言えば年上の人。まさか同い年である福田君と付き合うとは思わなかった。


「ほーう」

「んー?」


不機嫌になる福田君の顔を覗き込む。

―正直、嫉妬をすることもある

そういう時はこうしてちょっとだけ仕返ししてみる。

可愛くないなぁ、私。







雄二郎にバレた。そう、福田君から電話が来るのとほぼ同時にインターホンが鳴り響き雄二郎が部屋に飛び込んできた。


「福田君と結婚するって本当か!?」

「『はぁ!?』」


電話の向こうの福田君と私の声がハモる。


「なんでそうなったの…」

「だ、だって福田君が…」

『言ってねーよ!』

「言ってないらしいですが」


何がどうなって結婚なんて話になるんだ。付き合ってまだひと月弱。どう考えても有り得ない。


「じゃ、じゃあ付き合ってるってのも…」

「それは本当」


有り得ない、と言った感じに呆然とする雄二郎にため息を吐きながら福田君に一言断り電話をきった。


「に、妊娠は…」

「してないから」

「じゃあなんで結婚なんて…」

「だからしないってば!」


話を聞いてないのかこの人は。
そして悲しいことになんとなくだけど雄二郎の中でどんな思考が繰り広げられたのかわかった。

私と福田君の関係を知る→有り得ない、なんでだ→またか妊娠…!?→ってことは結婚…!
こんなところだろう。思い込みが激しいところは雄二郎の短所だ。


「ほ、本気なのか…?」

「本気じゃなかったら付き合わないよ」

「福田君…よりによって福田…?いやでも新妻君じゃないだけ…いやどっちにしても…」


そんなに信じられないかなぁ、と天井を見上げる。
そりゃ、友人の延長だし、甘い空気とかも殆どないけど…なんとなく悲しい。


「でも、名前が決めたんなら」

「ん?」


ガシッと肩を掴まれ意識を雄二郎に戻す。


「泣かされたら言うんだぞ」

「うん」

「け、結婚はまだ駄目だ」

「予定はないよ」

「避妊も…」

「わかってるから」


雄二郎は昔から兄みたいな存在だった。年をおうごとに過保護になって、たまに鬱陶しいけどそれなりに頼りにしている。


「名前を泣かせたらもう作品載せてやらないからな…!」

「おいコラ編集者」


だから認められるのは、嬉しい、かな。

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もしも福田君と付き合ったら+福田君か新妻君と付き合い勘違い雄二郎大暴走

まとめてしまいすみませんでした…!


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