祖父の家は普通じゃないと知ったのはわたしが小学校になると同時におじいちゃんの家に住むことになってすぐだった。

だって、指のないおじさんとか、顔に傷があるおじさんとか、入れ墨の入ったおじさんとか、怖い人ががいっぱいいたんだもん。すぐわかる。

最初は怖くてずっと逃げ回ってた。
おじいちゃんやお母さんの後ろから出なかったしみんながいない日は押し入れに隠れてたくらい。

そんなある日私が押し入れに隠れてそのまま眠ってしまい目を覚ましたら組員のみんなが私がいなくなったと大騒ぎしていたことがありいろいろあって三年経った今では打ち解け今では普通に話せるようにまでなった。


「お嬢!お帰りなせぇ」

「ただいま…おじいちゃんは部屋ですか?」

「親父さんなら縁側におりましたよ」

「ありがとうございます」


へこりと頭を下げておじいちゃんの元へ向かう。
このころには関西弁を喋らないからと学校で浮いてしまっていた私にとって家族と組員だけが気を許せる相手だった。


「おじいちゃん」


庭で刀をいじっているおじいちゃんに駆け寄る。
銃刀法というものを知るのはまだ数年先だ。


「ただいま。
これ学校の先生から」

「おん、お帰り。そこ置いときー」

「うん」


学校の先生から何故か祖父へと渡された封筒を祖父の隣に置きランドセルを下ろすために部屋にいく。


「お嬢、飴いかがですか」

「お嬢、さっき姐さんが羊羹を買うてきてはりましたよ」

「お嬢、今日の夕飯は…」


部屋に行くまでに会う人会う人が何かをくれたり話しかけてくれたりしたけどその大半が食べ物関係なのは気にしないようにしようと思う。

組員は優しい。わたしが組長の孫だからというのもあるけどうちの組は特に身内に優しいときいた。


今日、学校で家のことを馬鹿にされた。
馬鹿にされたというか、みんなが話しているのを聞いたんだけど…あいつの家はヤクザだから虐めたらヤクザが殴り込んでくる、海に沈められる、そう言われているのは前から知ってたし、実際わたしが泣いて帰ったら組員はやりかねないから放ってた。

虐められないし…友達もいたし。

でも今回は違った。あの組の人間はロクな人間がいないとか、関係ない人間にも暴力を奮うとか、みんな社会に馴染めなくてヤクザに成り下がったとか、明らかに誰か大人が言ってたことを丸覚えしたような、そんなことを大声で言っていた。


わたしにとっておじいちゃんもおばあちゃんも竜崎さんもすごくすごく大好きなそんざいだったし組員は大切な家族だったから、悲しくて、くやしくて。
泣きたくなったけど泣くのもあの子たちに負けたようでいやで。

必死にガマンして帰ってきた。


「お嬢?」


部屋にランドセルを置いてから廊下をとぼとぼと歩いていたわたしに組員たちが声を掛ける。


「どうかしはりましたか?」

「誰かに虐められたんですか!?」

「え、ええ…ちがうよ、違うから、大丈夫です…」


虐められたんじゃない。そんなことを言おうものならあの同級生はきっと…まあ、それは放っておこう、かな。
本当に虐めなんかじゃないから、きちんと否定しておいた。

心配そうにわたしを見るみんなは本当に優しいひとばかりで


「あのね、」

「?はい」

「あの、ね、」


一人の組員の服を掴み俯く。


「みんな、わたしの家族、なの」


みんな大切な家族で


「大好き、でね、」


言いたいことが上手く出てくれなくて、もどかしい


「み、みんな好きなのに、」

「お嬢!?」

「や、優しいのに、みんな大好きなのに、言えなかったの…」


ぐすぐすと泣きながら涙を拭う。みんなが馬鹿にされるのが悲しかった。知らないくせにいろいろ言われるのが悔しかった。なにより、みんなはいい人だもん、とはっきり言えなかった自分の弱さがくやしかった。


「で、でも、本当に大好きだよ、大切だよ、だから、だから」

「お嬢…」

「わかってますよ、お嬢がそう言って下さるだけでワシらは十分幸せですわ」


頭を撫でてくれる組員にまた涙が溢れて、結局泣き疲れて眠るまで子供のように泣きじゃくったのだった。





「そんなこともあったやんなぁ」

「う、うるさいじいちゃんの馬鹿昔話止めてってば…!」


今もへたれだし、びびりだからあの時と同じ状況になったとして反論できるかわからない。
けれど、私はやっぱり今でも彼らが大好きだと胸を張って言える。彼らは私の大切な家族だ、と。

--------

本当はおばあちゃんを出したかった



BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -