特に急ぎの仕事もないある休日の夜。
新妻家で夕飯を終え自分の家で絵を描いていた私は雄二郎からの突然の呼び出しに近所の居酒屋に向かっていた。

既に出来上がっていた雄二郎に嫌な予感がしながらも出来るだけ近道をしながら指定された場所へ行けば店の前には吉田さん。


「あ、来た来た…名前君!」

「吉田さん!」


店の前で私に手を挙げる吉田さんに駆け寄る。


「ごめんね突然」

「いえ、吉田さんが謝ることじゃ…雄二郎は?」

「中にいるよ。…服装は…ちょっと心配だけどまあ大丈夫だろう」

「え?」


頭からつま先までジッと見てから呟かれた言葉に首を傾げたまま店の中に案内される。
今日の服装は胸元に大きなプリントがはいったTシャツに薄い色のシャツを羽織り黒のショートパンツをはいただけのシンプルなもの。

そこにニーハイとヒールが高めなパンプスを履き大きめの鞄を持っている。

もしかしてフォーマルな格好が良かった?だとしたら何も言わなかった雄二郎に文句を言わなければならない。


「中には酔っ払いのおっさんが沢山いるから何かされたらすぐ言いなさい」


そう言って開け放たれた個室へ繋がる襖の向こうには物凄く見慣れたアフロ他程よく出来上がった人達。見事に男ばかりだ。


「これは…」

「週刊少年ジャンプ編集部の連中だね」


名前ー!と私の姿を見つけブンブンと手を振る雄二郎を見ながらひくりと頬をひきつらせ吉田さんを見ればしれっとした顔でそう答えられた。


「おー!君が噂の雄二郎の従姉妹ちゃん!?」

「若い!若いねー、何歳?」

「名前はー?」

「ちょっと!うちの従姉妹にちょっかいをですねー」


あ、カオスだ。
一瞬で悟った私は引きつる顔を抑えながらなんとか笑顔を浮かべ「名字名前です」と挨拶をしたのだった。





「名前君何呑む?」

「あー…ノンアル何ありましたっけ」

「え、まだ未成年?」

「あと半年は呑めないんです」


服部さんの言葉に答えながらウーロン茶を頼む。ノンアルカクテルは微妙だった。

それにしても


「(右隣に雄二郎、左隣に吉田さん、正面に瓶子さん、瓶子さんの右隣に服部さんって)」


なんでこの席にいるんだろうか…一瞬遠い目をしてしまう。

ここが一番安全な席だからって言われたからだけど。


「名前ー呑めー」

「飲んでる飲んでる。雄はちょっと寝てようか」


どんだけ酔っ払ってるんだこの人。


因みに私が呼び出された理由は雄二郎の机に飾られた私の写真の話(写真については雄二郎の酔いが完全に覚めたあとじっくり問いただそうと思う)になってそこから雄二郎の従姉妹自慢が始まりどうせなら本人を呼ぼう、となったという。どうしてこうなった。


「そういえば、名前君もしかして仕事中だった?」

「いえ、急ぎの仕事はなくて暇つぶしに絵を描いてたところだったんで」


仕事に全く関係ない絵だったから問題はない。


「従姉妹ちゃんは作家さんなんだっけ」

「あ、はい。高月凌って名前で…」

「ああ、エニグマの」


頷く瓶子さんにえ、と固まる。
知っててくれてるとは思わなかったから。


「姪っ子に薦められてコミックを読んだんだがつい文庫の方も集めちゃったよ」

「えええええ…あ、ありがとうございます…」


は、恥ずかしいやら嬉しいやらできっと真っ赤な顔をしていると思う。自分の作品を褒められるのはいつになっても慣れない。
しかも相手はあのジャンプの副編集長なのだから。


「名前君の作品はまずキャラがいい。そして独特なテンポが…」

「ああ、言葉まわしなんかは若い子らしくて…」


本人を前に作品の分析、評価ってどんな羞恥プレイですか…


「高月凌作品は確か高木君が全部持っていたな…」

「高木君が?そりゃいい。こんど読んでみろよ」

「いやもう本当勘弁してください…!」


恥ずかしくて死ねそうだ。

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編集部が出せなかったのが心残りです


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