ぐぅ、とお腹が鳴ったのと同時に目を覚ました。
時刻は昼休み二分前。相変わらず正確な腹時計だ。

少し早めに号令が掛かり鞄からオレンジの小銭入れを出し教室を出る。


「な、なんだと…?」


早めに授業が終わったにも関わらずもう既に人が溢れている購買を前に愕然とした。

実は購買に来るのはこれが初めてで、まさかこんなに凄いとは思わなかった。


「…そこで何をしている」

「あ、もーり先輩」


愕然としている私に話しかけてきたのはマンションのお隣さんの毛利先輩。


「いやぁ…まさかこんなに購買が混むとは」

「弁当はどうしたのだ」

「玄関までは持ってたのですがね」


つまり家の玄関に忘れてきたのだ。

まぁ忘れたものはしょうがない、と群の中に突入しようとしたらガシッと腕をつかまれそれを阻止された。
そんなことをするのは今まで話していた毛利先輩だけだ。


「貴様まさかあの中に行くつもりではあるまいな」

「行かなきゃ私昼飯抜きですよ」

「ふん、貴様が行ったところで踏み倒されるのがせいぜい。結局食いっぱぐれることになろうぞ」


毛利先輩の言葉に確かに、なんて思い直す。
私の身長は平均をまぁ…ほんの少し…だけ、下回る位だ。ほんの少しだけ。
決して大きいとは言い難い身長であの中に入っていくのは些か無理がある。


「だけどさっきから腹の高鳴りが止まらない」

「それを言うなら胸の高鳴りであろう」

「も、毛利先輩がツッこんだ…」


いつも大概スルーなのに!と驚くとぎろりと睨まれた。


「元就ー」


その後腹の高鳴りについて(一方的に)語っていた私達のもとに来たのは銀髪左眼帯のデカい人。


「遅い」


ピシャリと言う毛利先輩に銀髪の人は「てめぇな…」とふるふる震えた。


「礼の一つも言えねぇのか」

「何故我が貴様に礼など言わなきゃいけないのだ。いいから早くパンを寄越せ」


寄越せと言いながら銀髪さんからパンを幾つか奪えばその一つを私に渡した。
私はそれを受け取りその場で一口食べる。


「くれるんですか?」

「食してから言うでない。礼は昨日のきんぴらで良い」

「えー先輩ん家行くの面倒なんで先輩が来て下さいね。面倒なんで」


昨日の夜不意にきんぴらを作りたくなって大量に作ったものの消費に困り先輩の家にいつも世話になっているからお礼ですと言い張り無理やり半分程置いていったのだがどうやらお気に召したようだ。

隣の家なのに面倒も何もないが面倒なものは面倒だ。

話しながらも焼きそばパンを完食すれば「そんなに腹へってたのかよ」と銀髪さんはもう一つ焼きそばパンをくれた。


「ありがとうございます」


それを有り難くいただき一口かじれば毛利先輩にパーカのフードを引っ張られ苦しいと抗議しつつも焼きそばパンをくわえている私。
焼きそばパンを食べながらフードを引っ張られ引きずられている姿はなかなかに滑稽だろう。

そして後ろ向きだからわからないけどどこに向かっているのだろうか。

そんなことを考えながらもやっぱり焼きそばパンは離さなかった。



結局そのまま私は何故か中庭に連行され毛利先輩や銀髪さんと一緒に昼食をとった。
他にも何人か居た気がしたけど覚えてないから気のせいかもしれない。
ただ「これもやる」と言われて銀髪さんにもらったいちごみるくは美味しかったです、まる。


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