氷を目に当て冷やす彼女の顔の汚れを濡れたタオルで優しく拭いて落としていく。
それが終わったら長さのある綺麗な髪も。

恥ずかしそうに、申し訳なさそうにする彼女に気にするなと笑いながら制服も整えとりあえず終了。

時は放課後
場所は私の城である職員休憩室という名の和室。

今日は幸い部活がないらしいしゆっくり休めばいい。


「平気?」

「うん、ありがとう…」


随分と腫れのひいたもののまだ赤い目を見ながらもうちょっと冷やしな、と再びタオルでまいた氷を押し付けた。

さっきの先輩方はどうやらマネージャーを断られた連中らしく、一年で一軍マネージャーという地位についた彼女をひがみいじめを繰り返していたという。

最初に彼女に手を貸したとき彼女は酷い落書きだらけの教科書を抱きしめ泣いていた。
多分、あれもあの人達の仕業なんだろう。


「あの、本当にありがとう!」

「気にしなくていいよ。ただ私が気にくわなかっただけだから」

「でも嬉しかったから」


そう言って笑う顔はやっぱり可愛くて、私の目に狂いはなかったとつくづく思う。


「目、もう大丈夫そうだね」

「うん!本当にありがとう」

「それ何回目?、さつきって呼んでいい?私も千波でいいから」

「いいの!?」


名前だけで大袈裟な、とは思うけど、中学に入ってからの彼女をみる限りあながち大袈裟ではないかもしれないとも思う。
可愛いなぁ、なんて思いながら頷いて頭を撫でる。


「勿論」

「千波…千波ちゃん…やっぱり千波かな?」

「好きに呼びなよ、さつき」


あいつらは多分明日には処分される。まあ、処分なんてなくても私が側にいれば手を出すことはないだろう。向こうは私のこと知ってるみたいだったし。


「いじめのこと部活の人には?」

「…言ってないけど、多分何人かにはバレてると思う。あ、どうしよう私のせいで千波まで虐められたら…!」

「ああ、大丈夫。あの人達はもういじめなんか出来ないだろうし。見てたでしょ?ムービー撮ったの」


本当の理由をぼかしながら安心させるようにさつきの髪を梳く。…本当にさらさら。


「だから大丈夫。教室とかでもお話しよ?」


そう微笑めばうりゅ、と涙を溢れさせるさつき。うわーん!とか、ありがとう!とか言いながら子供みたいに泣きじゃくり抱きついていたさつきを抱き留めまた氷が必要になりそうだ、と苦笑する。


「泣き顔より笑顔が見たいんだけど」


ま、今は思い切り泣きなさい

ポンポンと背中を叩きながらそんなことを呟いて、直に泣き止むであろう彼女をどうやって笑かすかを思案したり

ああ、すっかり絆されてしまったようだ。



その後いじめがバレた彼女達はこの学校を追われることになり、そのことからさつきへの嫌がらせは姿を消して平和な日常が訪れることとなる。

まあ、余談だけどね。

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