じゃあ私は帰るから、と踵を返そうとした私の腕をガシリと掴みそれを阻止したのはさつきだった。
「来れなくなった部員の分もあるから一人分余るの!だから千波も一緒に食べようよ!」
「え、」
「いいんじゃないか?彼女が作ってくれたものだしな」
「ええ」
「早く座るのだよ」
「えええ」
グイッと手を引かれ椅子に座らされていつの間によそったのかみどによってご飯と味噌汁が目の前に置かれ、隣にみどが、目の前にさつきが座る。
…なんだこの状況。
「真太郎、こんなに食べれない」
「…少ない方だろう」
「成長期の男の子と一緒にしないでもらえるかな?」
戸惑いながらも手渡されたご飯の量に文句を言えば何故か不満げな顔をされた。
カツがかなり量あるから流石にキツいんだけど。
「さつきはちゃんと少ないし」
「桃井は女子だから当たり前なのだよ」
「…私は?」
「ああ…お前も女子だったか」
「このやろう」
そんな軽口を叩き合っている私たちをぽかんと見つめるさつき。というかバスケ部。
「え、なに?」
「本当に仲いいんだ…二人共」
「ん?うん。仲いいよー」
ね、とみどを見ればみどはぷいっと顔を背ける。
否定しない辺りがかなりのデレだ。
「緑間君のそんな顔初めて見ました」
「お前冗談とか言えるんだな…」
テツ(去年の一件以来こう呼ぶことになった)とさつきの幼なじみの…なんだっけ、青峰君?の言葉にみどは不快感を隠すことなくうるさいと一蹴する。
「というか二人が友人だとは知りませんでした」
「クラス違うからあんま一緒にいないしね。っていうか食べないの?そこの紫のいい加減暴れ出しそうだけど」
よっぽどお腹がすいているのかよだれを垂らしながら食事と赤司を見比べている紫を指せばみんなハッとしたようにそれぞれの席に座り大人しくなる。
「じゃあ、食べようか」
赤司の合図でいただきます!と行儀よく挨拶し一斉に食事にむさぼりつく連中を見ながら味噌汁を一口すする。うん、美味しい。
「美味しい!」
「それはよかった」
我ながらうまく揚げれたと思うトンカツはジュワッと口の中に肉汁が広がりなかなかうまくいったと自画自賛。
「ミドチンおかわりー」
「何故俺に言うのだよ。自分でよそえ」
「えー」
っていうか早い…彼は確か紫原君だっけ。学年で一番身長が高い子だ。
「いいよ、私がやる。さっきと同じくらいでいい?」
「甘やかすな」
「いいじゃないですかお父さん、どうせ真後ろなんですから」
「誰が父親なのだよ!」
私と真太郎の会話に何人かがぶはっと噴き出したのがわかったがとりあえずスルーだ。
紫原君から茶碗とお椀を受け取りご飯と味噌汁をよそって手渡す。彼の食べっぷりは見てて気持ちいい。
「千波」
「なに?」
「どうやったらこんな美味しい料理作れるようになる…?」
箸と茶碗を持ったまま少し顔を赤らめて俯き加減で絞り出すような声で言うさつきに密かに萌ながらうーん、と首を傾げる。
「私は慣れかな」
「慣れかぁ…」
「あとはいい見本がいたから」
私が料理を始めたのは小学校にあがったばかりの頃だから、かれこれ7年目になる。
「人には向き不向きがあるからそんなに気にしなくていいんじゃない?」
「そうかな」
「あんまり気になるなら今度料理教えてあげる」
まあ、人に教えられるほど得意でもないんだけどね。
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