父とゆうなさんが結婚するのをきっかけに私達は新しく家を建て引っ越しをすることになった。
私は小学6年生。きよくんは中学2年生。
2人とも転校するには微妙なタイミングになってしまうのでどうしたものかと4人で頭を抱えたのはあの顔合わせから数えて4回目の食事会の時だった。


「私別に遠くてもいいよ」

「でも…」

「きよくんは部活やってるから朝は早いし帰りも遅いでしょ?
私は何もやってないから時間あるし」


学校の前にバス停あるからそのバスの路線内だったらどこでもいい。


「私はあと一年も通わないから大丈夫」

「確か俊之さんがチェックしてた中に帝光中のすぐ近くの場所があったわよね?そこならバス停も近いし清志も自転車で15分で通えるんじゃないかしら」

「それなら千波も迷わないな」


父の言葉に目を反らしながら水を一口。
きよくんの視線が痛い。

そういえば。

宮地さんの呼び方がゆうなさん、息子さんの呼び方がきよくんになったのはあの初めての食事会の日。
きよくんのことは最初清志さんと呼んでいたのだけどこれから家族になるのに、とゆうなさんに言われきよくんになった。
ゆうなさん的にはお兄ちゃんと呼ばせたかったらしいのだけどまだ結婚してないのだからときよくんが言ってなんとか回避した。

2人が結婚して兄妹になったらお兄ちゃんと呼ばなきゃならないのだろうか。それは嫌だな。


「あ、私帝光中受ける」

「え?」

「あら、ならちょうどいいじゃない!」

「そ、れは初耳だぞ」

「ちゃんと言ったし頷いてた」


父は覚えてないだろうけど一応ちゃんと言ったし「そうか」と生返事であったが言質はとってある。


「受験の手続きもしてあるし」

「ほ、保護者のサインとか」

「この間見せた束の中にあってちゃんともらったけど」


ゆうなさんときよくんが呆れたように父を見る。
残念ながらこういう人なのだ、この人は。


「親の薦めとかじゃなく受験って珍しくね?」

「先生に薦められた。
それに今の家の学区の学校、改増築繰り返してて校舎がややこしいんだよね」


対して帝光中は敷地こそ広いものの校舎の造り自体は単純らしい。
これはかなり重要なポイントだ。

私は方向感覚というものに見放されていて、初めての場所だと必ず迷う。初めてじゃなくても迷う。店の中だろうがなんだろうが迷う。

きよくんやゆうなさん、それから父にまでそれがバレてしまったのは初めて会ったあの日。
レストランの中でトイレに行った帰りに迷子になったのをきよくんに発見されたのがきっかけだった。


「じゃあ土地は決まったな。あとは家か…」


バリアフリーにしようか
和室も欲しいわ
窓は大きめで、
あたたかい感じの家がいいわね

次々と意見を出していく父とゆうなさんに私ときよくんはただそれを見ているという状況。

いいんだけどね、別に。


「きよや千波ちゃんは何かない?」

「俺は自分の部屋があれば別に…あー、風呂は広い方がいいんじゃねぇ?」

「私も特に…きよくんはともかく私は将来家を出てくだろうし2人の好きにしたらいいと思う」


男の子であるきよくんより女である私の方が将来家を出る確率は高い。
進学とか、結婚とか。


「出て行く…」

「そうねぇ…でも俊之さんは勿論私も仕事で家を空けることが多くなるかもしれないしみんなで住む家だもの。千波ちゃんの意見も聞きたいわ」


父はこんなんでも一応大手薬品会社で重役をしているから忙しいしゆうなさんも大学病院で小児科医をしているため家を空けることが多いのだと言う。

とは言われても家なんて雨風をしのげれば別に…

あ、


「…キッチン」

「何かあった?」

「キッチンは、広かったら嬉しいかも」


今の家は部屋こそそれなりに広いけど台所はあまり広くない。
もうちょっと広くて使い勝手がよければ、とか密かに思っていたのだ。


「千波ちゃんは料理が好きなのね」

「うん」

「ならキッチンはうんと凝っちゃいましょう!」


そう言って張り切るゆうなさんに、いやほどほどでいいのだけど…なんて言う私の言葉は多分届いてないだろう。

諦めろ、というかのようなきよくんの視線に苦笑するしかなかった。




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