部活に所属していない私も委員会には所属している。
そんな私は図書委員。
委員の仕事は週二回。私は家が近いのと、放課後はスーパーの特売があったりするので月曜日の朝と水曜日の昼休み。
朝の当番は部活の朝練があったり朝が弱かったりする人が多いので嫌がる人が多く、逆に昼休みは人気なんだけども水曜日だけ何故か希望者がいなくあっさりと決まった。
さつきとお弁当を食べ、図書館へ向かう。
今日は水曜日。委員会の当番の日。
図書館への道はなんとか覚えたから迷うことはなくなった。
図書館のドアを開ければ既にもう一人の当番は来ていて。
ごめん、遅れた。 いえ、僕が早く来ただけですから。
そんな会話をしながら彼が返却作業を済ませた本を抱え本棚に戻していく。
「高い場所の本は僕が戻しますから」
「…お願いします」
私は決して身長が低いわけではない。むしろ150代後半なので、中1にしては高めだと思う。
対して彼―黒子君は同学年の中でもやや低めで私より少しだけ小さい。
じゃあなんで高い棚の本を彼に任すかというと私が踏み台や脚立に乗るのが苦手だから。
高いところは好きなのだけど、踏み台の上やなんかに立つのはやたらと怖いのだ。
前に意を決して踏み台に片足をかけたはいいもののなかなか上に乗らない私を不思議に思った黒子君に首を傾げられ、事情を説明して以来高い場所の本は彼が担当してくれている。
「今日は人少ないね」
「そうですね…5時間目が集会だからでしょうか」
「ああ、そうかも」
黒子君の言葉に頷きながら、そういえば、と思い出す。
「部活、一軍にあがったらしいね」
黒子君は低めの身長や細い体からは想像つかないけれどバスケ部に所属していて、彼から部活の話を聞くことも何度かあった。
一時は部活を辞めようとすらしていた彼が一軍に上がったと聞いたときは驚いたものの純粋に嬉しかったのを覚えている。
「ありがとうございます。でも、なんで…」
「さつき、いるでしょ?バスケ部のマネージャーの桃井さつき。あの子と友達でさ」
バスケ部っていうと黒子君っているよねー、ふとそうやって言ってみたら教えてくれたのだ。
「おめでとう」
ポケットからいくつかあめ玉を取り出して黒子君に渡す。しょぼいけどお祝いだ。
「ありがとうございます」
そう言ってふわりと笑う黒子君の顔は綺麗だった。
▽
―黒子テツヤという少年はどちかというと表情があまり豊かではない。
ころころと変わる表情を眺めるのが好きな私がさつきを気に入ったきっかけもそれだった。
黒子君も当てはまらない割に私は彼を気に入っていた。
気に入ってる、という言い方は上から目線だからあれだけど、要は割と好きな部類の人間なのだ。
だから
「みぃつけた」
彼の邪魔をするやつは、―ちょっと気にくわないかな?
「な…!?」
「それ、黒子君の鞄じゃないですか?やだー、いじめ?こわーい」
くすくす笑いながらわざとらしく顔をあげる。
いつだか、にぃにお前以上に質が悪いってことばが似合うやつはいないと言われたのを思い出す。
失礼な話だ。女の世界では声を荒立てた方が不利だからぶりっこをしてるだけなのに。
「っていうかそれユニフォームですよねー」
見下ろす先には黒子君の鞄からユニフォームを取り出し今まさに中庭の池に放り投げようとしている…先輩、かな?
ユニフォームってさぁ、ユニフォームってさぁ、ないでしょそれは。
ちょっと、更にカチンときたかもしれない。
「あ、とぼけても無駄ですよ?写真はしっかり撮ってますから」
にっこりと笑って携帯をひらひらと振る。
「ちなみにパソコンに転送済みだから安心して下さいね?」
その言葉に顔を真っ青に逃げていく男子生徒。
それを見送り腰掛けていた渡り廊下の屋根から飛び降りる。
そういえば、さつき助けたのもここだったっけ。
残されたユニフォームをきっちりと畳んで鞄にしまい、向かうは体育館。
「さつきー」
「千波!どうしたの?」
ちょうど洗濯物を干していたさつきに声をかければパァっと顔を明るくさせてこちらを見てきて。
それをかわいいなぁ、なんて思いながらさつきに手に持っていた鞄を渡す。
「これ黒子君のだと思うんだよね。中庭のベンチに忘れられてて…」
「そうなの?じゃあ渡しておくね」
「うん、よろしく」
さつきに嘘は吐きたくないけど嘘も方便というものだ。
黒子君なら察しがいいから多分わかってくれるだろう。
「さて、今日のご飯は何にしようかなー」
サバの味噌煮なんか、いいかもしれない。
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