帝光学園の合格発表の日、私は一人誰もいない教室にいた。


「川原」


そんな私の前に現れたのは担任。手には一枚の紙と大きな封筒。

私は黙って担任を見上げ、次の言葉を待つ。


「おめでとうさん」

「…合格?」

「ああ」


よかったー、とホッと胸を撫で下ろした。


「ちなみに次席だとさ」

「やったー、パソコンゲット!」

「お前なぁ…」


呆れる担任をよそに入試三位以内だったらパソコンを買ってもらうという父との賭けに見事勝てたことを喜ぶ。


「これが入学手続きに必要な書類その他もろもろだ。ちゃんと親御さんに見せて手続きしてもらえ」

「はい」


手渡された封筒をランドセルに入れ教室を出る。
バスの時間が近いからちょっと急がなければ。

駆け足で学校を出てなんとか間に合ったバスに乗り込んで携帯を開く。
ちなみに学校からは事情が事情だからと携帯許可をもらっているため堂々と使えるのだ。


「(合格したよ、っと…)」


とりあえずゆうなちゃんにメール。
すぐに「おめでとう!」というお祝いの言葉と、今日は帰れない、という謝罪の言葉、それから明日お祝いしましょう!という文で締めくくられた返信が来て、それに「フルーツタルトが食べたいな」と返信。

父にはゆうなちゃんから連絡がいくだろうしにぃはテスト期間中だから家にいるはずだからメールはいいや。

携帯を鞄にしまい、私は真っ白なマフラーに緩む口元をうずめた。





ただいまー、と言いながら玄関のドアをくぐる。
ただいま、という言葉を口にする習慣が出来るなんて、家に待っていてくれる人がいなかったあの頃は思っていなかった。


「おかえり」

「ただいまにぃ、受かったよ」

「で?」

「いえい」


棒読みでピースを作ればマジかよ!と声をあげるにぃ。
まさか本当に三位以内に入るなんて思っていなかったのだろう。


「ちなみに次席だったみたい」


ふふーと笑ってあらかじめチェックを入れていたパソコンのカタログを取り出しにぃに見せる。


「これが欲しいんだよね」

「へー、赤?」

「白かなぁ。デスクトップだし」


ノートだったら赤もいいんだけど。デスクトップで赤ってちょっと珍しい。
ちなみに我が家にはパソコンがない。父もゆうなちゃんも仕事用のノートパソコンを持っていて、私とにぃは携帯があるし、あまり必要なかったからだ。

だけど動画を見たり、調べものをしたりするにはやっぱりパソコンがいいしワードやエクセルも今後必要になるだろうから欲しいと思っていたのだ。

懸賞やなんかに応募すればあたるんだろうけどああいうのは大抵最低限のソフトしか入っていないと聞くし、何よりこういうお祝いで買ってもらえるならそれに越したことはない。

というか、こういう時に遠慮して何もいらないと言ったり安いものを強請るとゆうなちゃんがしょぼんとするのだ。合格祝は何がいいかと聞かれたときに圧力鍋と言ったら怒られたし。

さらに合格祝だけでなく入学祝もくれるというのでそれは…と遠慮した結果しょぼんとされてしまったので、じゃあ、と合格祝と入学祝を合わせてパソコンということになった。
ちなみににぃは中学の入学祝には携帯とウォークマンをもらったらしい。

ゆうなちゃんも父もそれなりに収入が多く、父と結婚したことで自由に使えるお金が増えたからかゆうなちゃんはやたらと私達に物を買おうとする。
それ以外には散財しないし、にぃは「諦めろ」の一言。

にぃはとっくに諦めたらしい。


「誕生日プレゼントもあわせてこれ、って言ったら聞いてくれるかな?」

「無理だろ」

「ですよねぇ…」



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