父のこと、昔のこと、全部話した後もきよくんの態度は特に変わらなかった。それが嬉しくて、ひどく安堵した。


「うまい」

「本当?よかった」


私が作った食事を食べて美味しいと言うきよくんに胸をなで下ろす。
よかった、口にあったようだ。


「料理、叔母さんに教わったんだっけ」

「そう。凄く料理が上手くて…あ、そこの息子さん…私のいとこなんだけど…もバスケやってるんだよ。歳もきよくんと一緒だし」


骨の髄からバスケ馬鹿ないとこを思い出す。


「へー。じゃあ大会とかで会ってるかもな」

「どうだろう…神奈川に引っ越しちゃったからなぁ」

「神奈川か…確か今度神奈川の学校ど練習試合するぜ」

「その中にいたらびっくりだよね。笠松幸男っていう名前だからいたらよろしく」


そんな偶然なかなかないけど、と笑いながら。







顔合わせをしたり食事をしたり、土地の購入や家の建設、それに関わる打ち合わせ、それから家具や家電の用意と引っ越し。

これらのために無理やり時間を作っていた父はそのツケがまわり新婚にも関わらずしばらく仕事漬けの毎日に舞い戻った。


「千波ちゃん」

「なに?ゆうなちゃん」

「清志、まだ帰らないかしら?」

「まだ帰ってないよ。今日練習試合だって言ってたから遅いんじゃないかなぁ」


そして私達の小さな変化。
義母の呼び方がゆうなさんからゆうなちゃんに、義兄の呼び方がきよくんからにぃにそれぞれ変化した。

私は実母に対するトラウマや嫌悪からゆうなちゃんをお母さんと呼ぶとあの人と同等に扱っているように思えて嫌で、それを話したら「じゃあゆうな"さん"だけはやめましょう?」と言うゆうなちゃんの言葉に今の呼び方になった。

きよくんの場合はゆうなちゃんはお兄ちゃんと呼ばせたかったみたいだけどこの歳からその呼び方をするのは少し恥ずかしかったためきよくんと私で少し考え呼びやすいにぃに定着した。
未だにきよくん、という呼び方が出てくるけど結構気に入ってたりする。


「そう…番組の録画したかったんだけど、わたしわからないのよ」

「私わかるよ。何撮りたいの?」

「本当っ?このドラマなの。
今の機械って難しいわよねぇ」


仕事で使う機械以外は滅法苦手なゆうなちゃんの代わりに撮りたいというドラマの予約をする。
昼ドラ、か…。


「あら、電話鳴ってるわよ、千波ちゃん」

「本当だ」


ゆうなちゃんに言われて携帯を見ればにぃからのメール。

"お前の従兄弟なんて名前だっけ"

"笠松幸男"

"マジかよ"

"マジだよ"

"今日の相手にいた"

"マジかよ"


父の留守が多かったため叔母夫婦が引っ越してしまった小4から私は携帯を持たされている。
よく迷子になるからとか、そういう理由ではない、はず。多分。
にぃも同じ感じで中学入学と同時に買って貰ったのだという。
にぃの場合部活やなんかであった方が便利ってのもあったみたいだけど。


「ゆうなちゃん、今日のにぃの対戦相手に私の従兄弟いたんだって」

「まぁ、凄い偶然ね」

「ねー」


世間は狭い、なんて思いながらまた新たに来たメールを開けばにぃと幸君のツーショットの写メ。
…なんか、仲良くなってる?

服装をみる限り試合は終わったんだろう。
にぃは現地解散だと言っていたから、少しくらい電話しても大丈夫かな?

携帯を操作してにぃの連絡先を呼び出しコールボタンを押す。


『もしもし?』

「もしもし、にぃ…じゃない、幸君!」


電話に出たのはまさかの幸君で、思わず声を大きくしてしまう。
びっくりした、幸君だ…


『は、千波!?なん、え?』

「あれ、聞いてない?」

『や、名前聞かれたと思ったら写メ撮られていきなり電話渡されて…』

「えええ…その金髪の人がきよくんだよ」

『はぁ!?』


幸君にはゆうなちゃんとにぃの話をしてある。
だけど"ゆうなさん"と"きよくん"としか知らないから名前を聞いてもわからなかったのだろう。


「にぃにかわってー」

『おー』


向こう側でガサガサと音がした後ににぃの『マジだったろ?』という声が聞こえマジだったね、と返す。


「幸君めちゃくちゃびっくりしてた」

『なんの説明もしなかったからな』

「もー」


まったく、と呆れながらも久しぶりに幸君の声を聞けたことは素直に嬉しかったのでありがとう、と礼を言って電話をきった。


―これがにぃと幸君の出会いの話




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