シノを左腕につけながら自分も食事をすませ、猿飛様が出して下さったお茶をすすり、ひと息をつく。

シノはお館様の兜についたもふもふとした毛が気になるのかジッとそちらを見つめ、見かねてそれを咎めればお館様が「よいよい」と私を止める。

そして全員の膳が片付いた所で改めての挨拶。


「こちらが奥州の伊達政宗公とその側近の片倉小十郎殿じゃ」

「依と申します」


つつ、と頭を下げてから「こちはら妹のシノでございます」とシノを紹介する。

伊達政宗公は顔立ちが綺麗で右目を覆う眼帯がまたそれを引き立てているようで。片倉様は鋭い目と頬の傷がそのお顔を迫力あるものにしているけれど、纏う雰囲気はピリッと中にどこか温かさを持つ、そんなお方だった。


「お二人はかつて父に仕えていた忍で引退後は参謀として貢献して下さったお方の身内の方でござる」

「依、弥助はお主らにとってどんな人間だったか聞かせてくれんか」


お館様のお言葉に、ちらりと奥州のお二人を見てからゆっくりと口を開く。


「とても、あたたかい方でした」


じいさまはどんな人だったか
そう問われればその一言に限る


「ほお、あたたかいか…わしはあやつに叱られた記憶しかないわい」

「不器用な、方でしたから」


そうであったな、と笑うお館様の目はどこか遠くを見つめており、今は亡きじいさまに思いを馳せているように思えた。


「その…弥助殿の最期はどんな?」

「…静かに、眠るように逝きました。私とシノに看取られて…最期はめったに見せない笑みを口元に浮かべながら」


その光景を思い出すと今でも泣きそうになる。

私の言葉はお館様は頷かれ、その暖かい目で私達を見られた。


「依、そしてシノ」

「はい」

「弥助には返しきれぬ程の恩がある。その恩、お主らを幸せにすることで返させてくれんか」


その、お館様のお言葉に、
その、まっすぐな視線に
今度こそ涙が溢れそうになる。
それでも私は小さく首を振り、まっすぐとお館様を見つめて口を開いた

「私達にはもったいないお言葉です。
それに、私は今十分に幸せなのです」
これ以上の幸せなどないというくらいに、本当に幸せだから


「くたびれた着物を着、手は荒れ果て、顔には疲労を浮かべ、それでも幸せと?」

「はい。この着物はじいさまが下さったもの。この手の荒れは私が人のため、自分のために働けている証拠。疲労は今必死に生きている証拠。何一つ嘆くものはありません」


胸を張ってそう言える。
けれども、
そう、私は一度言葉をきり、再び言葉を紡ぐ


「けれども一つだけお願いを聞いていただけるのならば、」


もしそれが許されるのであれば


「私に、もしものことがあったら。その時はシノを私のかわりに幸せにしてくださいますか…?」


お館様は目を丸くし、それからそのお顔に笑みを浮かべ、「約束しよう」と力強く頷かれた。


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