Ah?
武田信玄公と真田幸村との宴を終え、小十郎を部屋に残しての散歩の最中。不意に聴こえた声に足を止める。


「…歌、か?」


しかしそれにしては変わった旋律に思える。

声の聴こえる方向を探れば自分達に与えられた部屋の反対側、位置で言うと廊下の端と端と言えばわかるだろうか。そこにある部屋の前の縁側に腰掛け唄う女の姿が見えた。

女中?いや、たしか自分達以外にも客人がいると猿が言っていた気がする。恐らくそれだろう。

特に高価な着物を着るでもなく、飾りっ気もない女。
ただ、その歌声と共にいた小さな子供に向ける表情だけが妙に気になった。







今日の朝餉はお館様や幸村様、そして奥州からのお客様(伊達政宗様とその側近の片倉小十郎様だと聞いた)と共にするようにと猿飛様に告げられ、目の前が真っ暗になった。


「あんまり気負わなくて大丈夫だから」


そう、猿飛様がフォローして下さったけどもそういうわけにはいかない。
幸村様やお館様の顔に泥を塗るようなことがないようにと、頭の中はそればかり。


「失礼いたします」


襖の前で声を掛け、何拍か空けてから襖を開く。


「おお、来たか。いきなりわがままを言ってしまいすまない」

「いえ…けれど本当に私なんぞがご一緒させていただいていてもよろしいのですか?」

「ああ。他に客人もおるが気にせずお主らの話を聞かせてくれんか」

「…わたくしめの話なんかでよければいくらでも」


客人…伊達政宗様と片倉小十郎様に頭を下げ、指定された膳の前に座る。


「おはようございまする、依殿」

「おはようございます。幸村様、敬語は…」

「そ、そうであったな…また佐助に叱られてしまう…」


相変わらずの調子の幸村様に少しだけ緊張がとけ、安心する。
私の隣に座り不安そうにちらちらとこちらを見ているシノの頭を撫で、お館様の音頭と共に食事が始まった。


昨晩も思ったけど、こんなに立派な料理を食べても良いのだろうか。少し、気が引ける。

そんなことを考えながらも手を合わせてから箸を手に取り魚を口に運ぶ。…美味しい。

くい、と袖をひかれシノを見ればシノは慣れない魚に悪戦苦闘していた。


「シノ、お魚はこうして…」

「こう?」

「…そう。上手だね」


いつもはほぐしてあげるのだけども今回はそうもいかないので上手い食べ方を教えながら自分で解させていく。
三歳児にしては上手いんじゃないかと思う。


「シノ、美味しいか?」


まるで孫を見るみたいに目を細めたお館様のお言葉にシノは「おいしい、は、ほかほか…」と小声で唱えてから、こくりと頷いた。


「そうか、そりゃあよかったのう」


そんなシノの様子を不思議に思うでもなくにっかりと笑い頷いて下さったお館様に胸が暖かくなる。


「ねーさま、おなかぱんぱん」

「もう?そうだね、いつもより食べれたかな。でももう少し頑張ってみよう?」


シノの膳はまだ三分の一程残っている。いつもより頑張ったけれど、もう少し頑張れるんじゃないかと思う。


「シノちゃんまだ小さいから少なめにしたんだけどまだ多かった?」


いつの間に現れたのか、猿飛様がシノの膳を覗き込みながら首を傾げた。
いい加減、この登場の仕方にも慣れてきた私はそれでもひゅっと息をのんでしまったけどなんとか悲鳴はあげずに済んだ。


「申し訳ございません…。まだあまりたくさんの食事に胃が慣れていないようで、…これでも食べれるようになったのですが」

「いや、無理をして腹を壊してもいけんからな。次回からはもう少し減らすよう言っておこう」

「ありがとうございます」


会話の間もシノは先ほどの私の言葉があったからか一生懸命なんとかおひたしだけは完食していた。
そんなシノの頭を撫でればシノはふわりと笑い、それから私の腕に抱きついた。


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