大きな人。
第一印象はそんなものだった。

体も、声も、心も
全てが大きい方だ。
じいさまに聞いていた通り、素晴らしい方。


「お主らが弥助の?」

「はい。依と申します」


緊張に震える体を抑えながら、つつ、と頭を下げる。


「そちらの子は何と申す」

「シノ、と」

「そうか。頭をあげい」


その言葉に頭を上げ、お館様…武田信玄公を見る。威厳があり、あたたかく、優しい
そんな雰囲気を持った方だった。


「いきなりの長旅、疲れたであろう」

「いえ、そんなことは…」

「よいよい、顔を見ればわかる。夕餉までまだ暫くある。部屋でゆっくり休むとよい」

「お心遣い、ありがとうございます」


ああ、本当に、

泣きたくなるくらいあたたかいお方だ







何も仕事を与えられず、ただ客人としてもてなされるのは落ち着かない。考えてみれば城に来てから休みなどとったこともなかったし、もっと言えばこの世界に来てからずっとそうだった。

シノは一日中私と一緒に過ごせるからとずっとご機嫌で私の膝から動かない。
そろそろ、足が痺れるのだけど。苦笑をこぼしながらも寂しい思いをさせていたのだと思い知り、少し反省した。

食べ終わった夕餉の膳を女中さんにお願いし下げてもらい、シノを抱き直す。

本当はお館様が夕餉を一緒に…とおっしゃって下さったのだけど、奥州からのお客様もいらっしゃるということで辞退させていただいた。

お客様の前で何か失態を犯しお館様や幸村様の顔に泥を塗るようなことをしてはならないから。


「ねーさま」

「なに、シノ」

「おんも」


おんも…外に行きたいということか。叶えてあげたいけど勝手に出歩くのは…縁側くらいなら、いいかな。


「お庭にはいけないけどいい?」


こくりと頷いたシノと手を繋ぎ縁側に出る。


「星が綺麗」

「きらきらー」

「ね。きらきらー」


空に手を伸ばすシノを抱きしめながらクスクスと笑う。


「おっきさま、まんまるー」

「お月さま、ね。本当。今日は満月なんだね」
「ねーさま、うたってー」

「歌?」


うーん、そうだなぁ…と悩みながらシノが何かをおねだりするのはめったにないことなのでリクエストにこたえることにしようか。

曲は…そうだ


「輝く星に
心の夢を
祈ればいつか
叶うでしょう
きらきら星は
不思議な力
あなたの夢を
満たすでしょう」


星に願いを
夜空に歌うにはぴったりな曲だ。

本当は英語の歌詞で唄いたいけれど、誰かに聞かれたら面倒だから。


「人は誰もひとり
哀しい夜をすごしてる
星に祈れば淋しい日々を
光照らしてくれるでしょう」


歌い終わった私にどこで覚えたのかぱちぱちと拍手をするシノ。


「さ、そろそろ中に入ろうか」


日差しがいくらか強くなってきたとは言え朝晩はまだ冷える。
風邪でもひいたら大変だ。


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