初めての長旅に、馬に乗り慣れていない私は体中が痛くお館様がいらっしゃる躑躅ヶ埼館に着いた頃にはすっかり疲れてしまっていた。

けれどこれからが本番。シャキッとしなければ、と自分に渇を入れる。


「シノちゃん、べったりだね」

「多分、知らない場所だからだと思います」


館に着いてからずっと私にくっついているシノの頭を撫でる。


「大将の所に急なお客が来てるみたいだから部屋にひとまず案内するよ」

「客?一体誰が…」

「奥州のお二人さんだよ」

「なんと!」


パアアア、と顔を明るくされる幸村様。お知り合い、なのだろうか。
お館様のお客様だ。きっととても身分の高い方なのだろう。幸村様のお知り合いだとしてもおかしくない。


「じゃあ、依ちゃんとシノちゃんの部屋はここね」

「あの、こ、こんな広い部屋を…?」

「一応大将のお客様だからね」ああ、一応とはいえお客に粗末な部屋を与えるわけにはいかない、のか。


「シノ、なんか落ち着かないね」


畳にすわる私に抱きつきこくんと頷くシノ。


「こんな広い部屋初めてだからどこに座っていいのかもわからないや」

「シノはおひざ」

「はは、シノはそうだね。だけど、あとでお館様に挨拶するときは膝の上はだめだよ?」


くすくすと笑いながらシノの頭を撫でる。


「シノ、今日は猿飛様と何をお話したの?」

「すきー」

「好きなものの話?」

「シノね、じーさまとねーさまがすきー」

「そっかぁ。ねーさまもシノとじいさまが大好きだよ」


へらっとはにかむシノが可愛くてぎゅーっと抱きしめ、それからシノをはなし持ってきた荷物から正方形に切った紙を取り出した。
幸村様や城の皆が書き損じた紙などをシノにくれたものだ。


「折り紙しようか」

「お、がみ?」

「折り紙。みてて」


正方形の紙を折ってどんどん形を作っていく。


「はい、鶴の完成」

「!シノも!」

「うん。何作ろうか?最初は簡単なものからね」


あまりないレパートリーからシノでも作れるようなものを捻り出しながら、一緒に。
シノはあまり器用に動かせない小さな手でそれでも必死に紙を折る。


「みて、手裏剣」

「にんにん!」

「へぇ、凄いね」


突然聞こえた声にビクッと跳ね上がる。
猿飛様だ。
毎回、毎回、こうして驚かされる。一向に慣れない登場の仕方にいつか本当に心臓が止まりそうだ。


「これ、依ちゃんが作ったの?」

「私と、シノで」

「器用だねー」


くるくると私の作った手裏剣を回しながら猿飛様がいう。


「大将とお客との話が終わったから、そろそろ挨拶行くよ」

「わかりました」

「いいお返事。旦那がちょーっとそわそわしてるかもしれないけど気にしないであげてね」


そんな猿飛様の言葉に首を傾げた私に、猿飛様が今日来られているお客様は幸村様の好敵手なのだと教えて下さった。ああ、それであんなに。


シノの手をつなぎ廊下を歩きながらドキドキと高鳴っている胸を押さえる。…緊張、するな

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