やわらかい日差しの中、私の手をつかみながら目を輝かせるシノを見て微笑みながら目の前に広がる城下町を眺める。


「ねーさま、」

「ん、なに?シノ」

「人、いっぱい!」

「そうだねー、はぐれると大変だからねぇさまから離れちゃだめだよ?」


こくん、と頷くシノの手をしっかり握ってから、ゆっくり歩き出す。
溢れんばかりの人々は皆それぞれの表情を浮かべながら買い物を楽しんだり商売をしたり。とても賑やかな場所だ。


「シノちゃんは城下初めて?」

「はい。と言いますか、用事もなく外に出ることすら初めてで…」


山にいたころは私が薬草を採りに行くのに付いてきて遊んだりはしてたけど…上田城でお世話になるようになってからも私が買い出しに行くときは留守番をしていたから初めてになる。


「そうか…お前はどうなんだ」

「私は何度か…けれど買い出し以外で来るのは初めてですね」


山にいた頃は買い物はじいさまが行って下さっていたからお金の単位や使い方、買い物の仕方やなんかを教えていただいた時にお使いに行ったくらいだろうか、山を降りたのは。

上田城でお世話になり始めてから何回か城下に行ったけれど、それは全て城の買い出しだったから。


「おい、上田はそんなに非番がねぇのか」

「お、お休みはよくいただいてます。けれど大抵はシノとじいさまのお墓参りに行ったり、城のまわりを散歩したりするくらいで…城下に行く、という発想がまずありませんでした」


そういえばまわりの女中さん達は買い物やお茶をしに城下に行ってきたとよく話している。
…元の世界では家に帰りたくなくて意味もなく店の中をぐるぐるみて歩くことはあったけど買い物とか、娯楽とか、そういうの無縁だったからなぁ。


「年頃の女の子なのに…!」

「着物にも装飾品にもこだわりとかなくて…」

「もしかしてその簪も弥助じいが?」

「いえ、この簪はかすがさんにいただいたんです」


お前も少しは着飾れ、とかすがさんがくださった簪を触りながら小さく笑う。


「自分の給金で買った物はねぇのか」

「自分の…あ、シノの髪飾りは買い出しの時にたまたま見つけて初めてのお給金で買ったんです」


髪飾りを渡したときのシノの顔を思い出すだけで顔が緩む。


「シノちゃんの、ね…」

「依殿は本当にシノが好きなのでござるな」

「はい」


そんな会話をしながらも私達の足はまっすぐ目的の店に向かっていた。
なにやら、幸村様行きつけのお店があるのだという。


「ここでござる!」


そう言って案内されたのは一件の呉服屋。
着物を、買われるのだろうか。


「さ、2人とも中へ!」

「え…?」

「大将から依ちゃんとシノちゃんに着物を、ってお金預かってきたんだよね」


あ、俺様達が怒られちゃうから遠慮とかしないでねー
そんなことを言いながら私とシノの背中をトン、と押す猿飛様に戸惑いながら店の中へ入る。

着物?私とシノに?お館様が?そんな…ああでも断ったら猿飛様が…そう言われたら断れないのをわかっていて、ずるい。

店内に入ればすぐに人好きのする笑顔を浮かべた女将さんが現れ何がなんだかわからないままに次から次へと着物をあてられ、安いものでいいと言えば四人に却下され。

あれがいいこれがいいと猿飛様や幸村様だけでなく政宗様や片倉様まで一緒になって私とシノの着物を選び始める始末。
ああ、どうしてこうなってしまったのだろうか…。


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