私の言葉に「そうだな」と小さく笑った政宗様はシノの眠る布団の隣に並べられたご自分の布団に入られ、それから「何か歌ってくれ」と私を見た。


「歌、ですか」

「そうだな、昨日シノに歌ってたやつでいい」


寝返りをうった際にずれたシノの布団を直しながら昨日の晩…と記憶を辿る。ああ、子守歌か。



「ねん、ねん、ころり
おころりよ
ぼうやのお守りはどこへいった
あの山越えて里へいった」



すう、と息を吸い歌い出す。
続きは…ああ、そうだ。思い出した。



「里の土産に何もろた
でんでん太鼓に笙の笛」


歌い終わって政宗様を見る。


「やっぱりお前の声は耳に馴染む」


政宗様はそう言っていつもの自信に溢れたような笑みとは違う、綺麗な笑みをそのお顔に浮かべ、ゆっくりと目を閉じられた。


「おやすみなさいませ」


よい、眠りを







「依」

「はい、」

「先程の忍の話だが…」


政宗様が眠りにつかれて数分が過ぎた頃。
ふと、真剣な顔で私の名前を呼ばれた片倉様に居住まいをただす。


「奥州の忍様の事でしょうか」

「ああ」


その厳しい表情に「ああ、」とあることに気付き口を開いた。


「私が手当てをした忍様はお二人。片方は…恐らく片倉様よりも少しお年を召した方でもう一人はまだ若い方でした」


片倉様が知りたいのはそんなことではないとわかりつつも言葉を紡ぐ。

お二方とも酷い怪我ではありましたが後遺症もなく今も働かれているかと思います。

そう続けた後、私は一度言葉をきって片倉様を見る。
そろそろ、本題に入らなければ。


「名前は知りませぬ。教えて下さいませんでしたし私も訊ねませんでしたから…。お二人が奥州の忍であることも後から。
お二人は政宗様のことを主、または筆頭と呼んでらっしゃいましたので…。
忍様ですから、ご自分達の情報は漏らさぬようしてらっしゃいました。けれどその…じいさまが一応、と」


片倉様が懸念されてらしたのは恐らく彼らが自分達の情報をぺらぺら…とまではいかなくとも話してしまったのではないかということだろう。
だけどお二人は何も話してはくださらなかったし私も聞かなかった。

忍の方にそれを聞くのはよくないとわかっていたから。

けれどじいさまは隠居していたとはいえ忍。私が関わった忍様のことはそれなりに調べてらしたようで。


「一応、奥州の方で政宗様に仕えてらっしゃるということだけ教えていただいたのですがそれ以外は何も」

「いや、いい。うちの連中がやすやすと情報をもらしたってんなら別だがそうじゃないなら仕方ねぇからな。うちの人間が世話になった」

「いえ、私は簡単な手当てをしただけですので…」


本当に大したことはしていない、と否定しながらも片倉様は本当にいい上司なのだと実感する。

この時代、殆どの場合忍は道具として扱われると聞く。
猿飛様が「忍なんか」と自らを卑下するように、かすがさんが自らを「剣」と称するように、風魔さんが自分に意志は必要ないとおっしゃるように、この世界ではそれはとても当たり前なことなのだろう。

もしかしたら幸村様や片倉様もそうなのかもしれない。けれど、例えそうであったとしても、こんな小娘に礼を言うばかりでなく頭を下げるということは忍を奥州の者と、自分の部下だと認識している証拠じゃないかと思う。


「こうしてお二人に直線お会いして、あの方々があんなにもお二方を慕ってらしたのかわかった気がします」


お二人はとても暖かい方々だから、きっと奥州も暖かい場所なのだろう。
幸村様や猿飛様とはまた違う暖かさ。

幸村様と政宗様のお召し物から、というわけではないけれど、お二人は正に赤と青。

正反対の色だけど、だからこそ二人は良きライバルなのだろう。


「シノも…」


この子も、
皆さんのように強く暖かい子になってくれたら、
そんなことを考えながら、私はシノの頭を撫でた




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