川の近くで落ちている風魔さんを見つけました。
一瞬警戒したもののそれどころじゃないと慌てて近づきました。
手当てどころか近付くことさえ許してもらえませんでした。
なので、
…近くに落ちていたクナイで自分の腕を切りその傷に薬を塗ることで薬が安全なことを証明しました。
これが一連の流れである。
そしてこの流れはこの後数回繰り返されることになることは言わないほうが得だろうと思う。
「…依ちゃん」
「…はい」
「あのね忍ってのは本当に危ない奴らばっかなのわかる!?だからむやみやたらに近付いちゃ駄目だしましてや怪我して気が立ってるときに近付いたら何しでかすかわからないんだよ?手当てするにしたって自分の体に傷をつけてまで…っていうか自分が怪我しちゃ駄目でしょ!」
「かすがさんにも同じようにお説教されました…」
数ヶ月前の出来事を思い出しうなだれる。
かすがさんの時も同じように実践で薬の安全性を証明したため、だ。
「依ちゃんが怪我したらシノちゃんや俺達だって心配するんだからね!?」
「…あの頃は、自分が怪我をすることで誰かが嫌な思いをすると知らなかったんです」
猿飛様が、息をのまれたのがわかった。
「怪我をすると痛い。病気をすれば苦しい。だからそんな人を見ると何かせずにいられなくて…じいさまに会うまでの私は誰かに手を差し伸べる余裕もなくて、でも今はそれをする余裕も、術もあると気付いたらつい…。
でも、自分がそうなったときに同じように思ってくれる人がいるって思いもしなくて」
最初に怒ってくれたのはかすがさんだった。
私よりもずっと感情が表に出るかすがさんだからこそ、私に気付かせてくれた。
「…その…大切な人が傷ついたら嫌だって言うのは知っていても自分がその"大切な人"になるなんて思ってもなくて、だからかすがさんに叱られるまで全く事の重要さがわかってなかったんです。
それで、かすがさんに叱られて、例の約束をしてからは一度も…」
「昨日、政宗様が倒れられたとき俺が頷かなかったらどうしてた」
片倉様の言葉に「え?」と首を傾げる。
あの時、片倉様が頷かれなかったら…
「…もしかしたら、同じようにしていたかもしれません」
本当に、危ない状況だったから。あの状況ならしていなかったとは言い切れない。
「信頼を作ってからどうこうとか言っている場合じゃなかったので…」
まわりに動物もいなかったし、ああでもどうだったんだろう。その時じゃないとわからない。
「―次からは」
「旦那?」
「次、またそういったことがあったら某がその役目を担いましょう」
まっすぐ、私を見つめる一対の目。
「依殿の薬がいかに安全か説明いたしましょう。それでもどうしようもない時は某が依殿がしたように身を持って安全なことを証明しよう」
「そんな…!」
「某は依殿よりも体を鍛えております故ずっと安全でござる。男であります故傷が増えても何も困ることはありませぬ。そしてなにより、依殿のことは信頼している故問題ないでござる」
きっぱりと言い放つ幸村様に言葉を失う。
だって、それはつまり自らを傷付けるということだから。そんなの、嫌だ。
―ああ、かすがさんはこういうことを伝えようとしてくださっていたのか。
「だからどうかご自愛して下され」
「…約束は、できません。私は目の前で誰かが傷ついていたら手を出さぬと、そう言い切れません。ですから誓うことは出来ません」
「それでもいい。ただ、もしそのようなことがあったら某が依殿のかわりになることとシノ殿が泣かれることだけは覚えていてくだされ」
それは、どんな言葉よりも胸に響いた気がした。
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