ああもうわかったよ!と猿飛様が一瞬で持ってきてくださった布団にシノを寝かせ濡らした手拭いをその頭に乗せる。
猿飛様と片倉様は夕餉の様子を見てくると部屋を出て行かれ、部屋には私とシノ、それから政宗様が残された。
「ねーさま、シノあしたおみせいくの」
「うん、明日城下に行けるようにしっかり寝てお熱下げようね」
ゆっくりと頭を撫でてシノを寝かしつけるためぽん、ぽん、とシノの胸を優しくたたけば直ぐに聞こえる寝息。
「随分と寝つきがいいな」
「家にきた当初は全然眠ってくれなかったのですが…気を許してくれている証拠でしょうか」
まるで寝ることが怖いかのように体が限界を訴えるまで寝ようとしなかったシノ。
「…怖かったんじゃねぇか」
「え?」
「昨日、お前が言ってただろ。今の生活は自分の願望からきた夢で、いつか醒めてしまうんじゃねえか心配なくらい幸せだって」
政宗様の言葉に、ゆっくりと目を見開く。
「こいつもそうだったんだろ」
父さんや、母さんに殴られ、蹴られ、罵られ。
そうして見る夢は残酷なほど優しくて、目が覚める度に絶望を覚えた。
だから、こちらの世界にきたばかりのときは眠るのが怖くて。
この子も、そうだったのだろうか。そうだったとしたら…
「…もしくは、悪夢を見ても目を覚ましたらお前がいるから大丈夫だと信頼しているからだな」
「だったら、嬉しいですね…私にとってのじいさまがそうだったように」
バタバタと足音が廊下から聞こえてくる。
「幸村様でしょうか?」
旦那!廊下を走るなって言ってるでしょ!
「…みたいだな」
私の疑問に答えるかのようなタイミングで聞こえた猿飛様の怒声に政宗様が呆れたようにため息を吐いた。
―団子を持った幸村様が部屋の襖を開けはなったのはその直後のことだった―
▽
「そういえば依ちゃん」
「はい」
「なんで薬のこと黙ってたの?」
「薬のこと?」
こてん、と首を傾げる猿飛様に同じように首を傾げる私。
部屋に飛び込んできた幸村様を追いかけて部屋に来た猿飛様は幸村様へのお説教を粗方終えたところで私の方を向き上の問いかけをした。
「薬、作れるって」
「あ…じいさまとの約束で、商売目的以外の時は自分を信頼している人間以外にはなるべく言わないようにと…」
「依殿が、ではなく依を、なのでござるか?」
「私たちはその薬が安全だと証明する術を持ちませんから」
いくらこの薬は安全だ、と言ってもそこに信頼がなければ受け取って貰えない。
薬と毒は紙一重でもあるから。
「…ねぇ、依ちゃん」
「はい、なんでしょう」
「風魔とかすがの時はどうしたの?」
ひくり、
猿飛様の問いかけに笑顔が僅かにひきつったのが自分でもわかった。
「いくら意識がなくてもあの二人が素直に手当てさせるわけないと思って」
「依殿を疑っておるのか佐助!」
「違うよ。ただどんな手を使ったのかなーって。俺様、いやな予感がするんだよねぇ」
猿飛様がにっこりと笑いながらこちらを見る。
言いたくない。言いたくないけれど私に対する疑念は少ないに越したことはない。
ただ言ったらどうなるかは容易に想像出来る。
猿飛様と、幸村様。政宗様と、いつの間にか部屋に戻って来られた片倉様の視線が私に集まるのがわかった。
「あの、その……じ、」
「じ?」
「実際、に…」
猿飛様の笑顔がピキリと凍りつく。
「実際に、なに?」
視線を左右に泳がしてから、一か八かと誤魔化すようににっこり笑ってみる。
「依ちゃん」
「…はい」
「詳しく教えてくれないかなー?」
「………ハイ」
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