シノの件はこれにて一件落着じゃな、と笑うお館様に深く頭を下げその場は解散になった。

部屋の襖を開けた瞬間飛びついて来たシノを抱き上げ小助様にお礼を言うと小助様は「随分寂しがられておりました」と小さく笑って姿を消させた。


「シノ、ただいま」

「おかーりなさい!」


舌っ足らずなお帰りなさいにくすりと笑って頬ずりをする。もう、この子を苦しめたやつらはいない。それが嬉しくて、嬉しくて。シノをぎゅっと抱きしめた。


「シノ、幸村様がね、明日一緒に城下に行かないかっておっしゃってくださったの」

「じょうか…」

「そう。お店がいっぱいある場所」

「…!おみせいきたい!」


そっかー、じゃあ後で幸村様にお願いしなきゃね、と言いながら風魔さんにいただいた薬草を薬箱に入れ、その薬箱を持って立ち上がる。


「政宗様の所へ行くけど…」

「や、シノも!」

「うん。シノも一緒にね?」


本当に寂しい思いをさせてしまったらしく、シノは私から全く離れない。
そんなシノと手を繋ぎ、向かうのは先程教えていただいた政宗様のお部屋。
部屋の前に正座し、「依です」と声を掛ければすぐに返ってくる「入れ」という言葉。
それに襖を開けると…


「え?」


政宗様と、片倉様。
それから猿飛様と…もう一人、此処にいるはずのない人物。


「依!」


私に駆け寄ってくる、その方は、


「かすが、さん…?」


じいさまと、風魔さんと、あの約束を共に交わしたもう一人の人物であるかすがさんが、そこにいた。


「何故お前がここに!」

「え、ゆ、幸村様にお世話になっていて…かすがさんこそ、なんで…?」

「私は謙信様の文をそこの竜に届けに…」


ガシッと両肩をかすがさんに掴まれた状態で二人顔を見合わせる。


「…上田城にいるのは風魔に聞いていたが、甲斐にいるのは知らなかった」

「おとついから、滞在させていただいてるんです」

「怪我をしたらしいな」

「風魔さんですね?大したことないので大丈夫です」


ふ、と呆れたように笑うかすがさんとくすくす笑う私。
それからそんな私たちをポカンと見つめる三人。


「風魔に全部聞いた」

「なのに私がここにいることは言わなかったのですね」

「全くだ!余計なことは話さない主義だとは言えそれは言うべきことだろう!?危うくこのまま上田に直行するところだった」


聞けば私の無事を確認するためにわざわざ上田まで行こうとしてくれていたという。
いま会えてよかった。


「ちょ、ちょっと待って…依ちゃん、かすがとも知り合いなの?」

「はい。先程お話した、約束を交わしたもうひとりの方がかすがさんなんです」


じいさまと風魔さんとかすがさんと私。
四人で交わした約束。
かすがさんは猿飛様をちらりと見た後思い切り嫌そうな顔をしてそれから真剣な顔で私を見つめ再び私の両肩をがしりとつかんだ。


「いいか依、あの男に何かされそうになったら全力で急所を蹴り上げろ!」

「かすが!?」

「あの男はとんでもないろくでなしだから出来る限り近付くな。それから…」

「か、かすがさんと猿飛様はお知り合いで…?」

「猿飛様だと!?」


貴様依にそんな呼び方をさせているのか!
いや違うんだよかすが依ちゃんたら何回言ってもやめてくれなくて…
うるさい黙れ!
理不尽!

そんな会話を繰り広げるお二人に唖然としてから呆れたように、そして鬱陶しそうにお二人を見てらっしゃる政宗様の側に腰を下ろす。


「傷のお薬を持って来たのですが…」

「ああ、悪いな」

「こちらの入れ物に入っているのが傷を治すお薬、こちらの入れ物は化膿止めです」

「Ah…依」

「はい?」

「……あいつらを止めてくれ」

「………シノをお願いします」



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