「風魔の今の雇い主はもう松永じゃないし契約は守る主義だから弥助じいとのあれがある限り例え今の雇い主に何を言われてもシノちゃんを狙う気はない。
依ちゃんの怪我のことを知っているのは依ちゃん達がここにいるって聞いて様子を見に来たのがちょうど依ちゃんが竜の旦那の手当てをしてたときだったからで…ああもうだから悪かったってば!…こうして依ちゃんに怪我をさせたことをぐちぐち言ってるんだけど」

「は、はあ…」

「Ah…つまり風魔は依に対しては全く害のねえ存在ってわけか」

「ふむ…ならば風魔よ。昨晩の商人が死んだ件については何か知っておるか」


お館様の問いかけに風魔さんは一度こちらを見た後猿飛様を見やる。何か告げているのだろうか。


「…は!?いや、そんなことだろうと…じゃあ全部…だからなんであんたはそんな上から目線なんだよ!」

「佐助、風魔殿はなんと?」

「…商人やったのはこいつだって」

「え…?」



私はバッ、と風魔さんを見やる。


「私が、シノが、狙われたからですか…?」


こくり、風魔さんが頷く。

風魔さんが私の手を自分の口にあて、ゆっくりと口を動かす。


「か、り、は、」


借りは返した…?


「え、まだ何か…や、く、そ、く…約束?あの時の?」


再びこくりと頷く風魔さんは私の頭をぽんぽん、と二回撫で、音もなく姿を消した。


「借り…約束…」

「依殿…その、借りと約束とは?」


おずおずと尋ねる幸村様に小さく頷いて口を開いた。


「…風魔さんがシノを狙って家に来たのはシノを引き取ってすぐでした。その時はじいさまが追い払われたのですが…少しして、薬草を取りに行った山の中で風魔さんが大怪我をして倒れてらしたんです」


川の側で血を流しながら倒れる風魔さん。


「それで、つい…」

「つい?まさか…」

「つい、手当てを…」


猿飛様と片倉様の口元がひくり、と動いた。


「い、意識もない状態でしたので止血と、忍用のお薬を…それから一旦家に戻りじいさまに相談したら特に止められなかったので二日ほど近くの小屋でお世話、を…」

「何かされたら危ないでしょ!?忍なんて危ないやつら簡単に助けちゃいけません!ましてや一度自分達を襲った相手を…」


母親モードに入った猿飛様にビクビクしながら「で、でも、」と言葉を続ける


「前も、大丈夫でしたし…」

「その前にもあるの!?」


ひ…!や、やぶへび…


「じ、じいさまが何も言われなかったので大丈夫、かな、って…す、数回…」

「数回!?確かにあの山は忍が迷い込みやすい場所だけど…いくら弥助じいがいるからって危ないでしょ!」

「そ!それで、借りってのは恐らく手当ての、で、約束は、その…ひ、必要以上の殺生は…っていう…」


無理矢理話題を変えた私に猿飛様は不満気な顔をしたものの私の水はささずに聞いて下さった。


「必要以上の殺生…」

「なんて、言いますか…なんかの拍子にそういう話になって、その時に…」



―失われる必要のない尊い命が理由もなく奪われるのは、こんな時代だからとは言え悲しいです


そう、あれは夜盗に全滅させられた村の話を聞いた時だった。
ぽつりとこぼした言葉に風魔さんはふむ、と考え込み、それから「お前が約束を守るならば己は主が望む以外は無駄な殺生はしない」と…そう、約束だ。


「私が、自分の命を大切にするという約束を守るのならば変わりに自分は無駄な殺生はやめよう、と…」

「それが約束?」

「他にも、もう一人忍の方がいらして…それでじいさまと四人で約束を交わしたのです。
私は、自分の命を大切にする。
じいさまは自分の命が尽きるまで私を守る。
風魔さんは無駄な殺生をしない。
もう一人の方は出来る限り怪我はしない、と…。
どちらも忍の方に強いるには酷な約束だったで私に約束させるためにおっしゃっただけだと思っていたのですが…覚えてて下さったようです」


多分、商人の館で主要人物以外を殺さなかったの理由がそれだろう。
あんな口約束を守ってくれていたのが、とても嬉しくて。
気が付けば口元が自然とゆるんでいた。


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