「単純に考えてシノちゃんを狙う誰かが同じく本格的にシノちゃんを狙いだした商人が邪魔で殺したってとこかな」
「…昨日の忍は商人の差し金だったんですよね?だとしたら…最初からシノを捕まえるのではなく殺すのが目的ではなく私達の命が目的だった…」
「商人の逆恨みが理由ならそう考えるのが妥当だね」
「ちっ、胸糞わりぃやつだ」
吐き捨てるようにおっしゃった政宗様に心の中で同意しながら静かに俯く。
自分の欲のために勝手な思い込みでシノを買い取りそれが勘違いだったと気付いたら幽閉、そして虐待。
やっと売れるとなかったら今度は家が燃えシノも消えて…逆恨み。
こう、考えるのは多分いけないことなんだろうけど、殺されたことに同情のかけらも覚えられない。
「商人達をやった奴の検討はついてんのか」
「それがさー、ぜーんぜん。相手はかなり腕の立つ忍みたい。
それこそ、風の悪魔みたいな」
「…依、確か前に風魔が来たと言っておったな」
「はい、シノを引き取ってすぐに…でも…」
「―――!」
私の言葉の途中で突然皆さんがバッと各々の武器に手をかける。
「依ちゃんこっちに!」
「は、はい」
言われたとおりに猿飛様の方へ行こうとする私の腕をガシッと掴む手。
「依殿!」
「テメェ…その手を離しやがれ!」
一斉に戦闘体制に入る皆さんに私はゆっくり手の主を振り返った。
真っ赤な髪に目まで隠す兜、大きな体。
「風魔!やっぱりお前が…」
「ま、待って下さい!」
武器を構える猿飛様に慌てて声をあげる。
「依ちゃん?」
「あの、大丈夫です」
「何言ってんだ、そいつは!」
「だ、大丈夫なんです。その…ふ、風魔さん、手を離していただいてよろしいですか?」
一旦片倉様に向けていた視線を再び風魔さんに戻す。
風魔さんは(目が見えないから多分だけど)私をジッと見たあと静かに腕を離した。
「ありがとうございます。お薬、ですか?」
私の問いかけにコクン、と頷き、それからやっぱり違うと言うかのようにふるふると首を横に振る風魔さん。
風魔さんは私の手をそっと取り、左腕の袖を捲り昨日の傷を見た後どこからか出した巾着をソッと私の手に置いた。
「これは…薬草?もしかして、傷薬を作る薬草を取ってきて下さったんですか?」
頷く風魔さんに「ありがとうございます」と微笑む。
一体いつ私が怪我したのを知ったのか気になる所だけどそこは多分聞かない方が、大人しく礼を言った方がいいと判断した。
「ま、まって依ちゃん」
「はい、なんでしょう?」
猿飛様の言葉に後ろを振り向けば戸惑いを隠せないといったような五人の姿が、そこにはあった。
「依ちゃん、そいつ風魔はシノちゃんを攫いに来たんだよね?」
「えっと、そうです。その、松永…?に仕えてらした時は。けれど一度じいさまに撤退させられ今の主様に仕え始めてからはよくうちに薬を貰いに来てて…薬を渡す代わりにシノや私に手を出さない、という契約をじいさまと…」
「…じゃあ風魔はもうシノちゃんを狙ってないわけ?
え、何?…ああそうアンタはそういうやつだったね!…はあ?お前が主君をころころかえるからだろ!?」
大体なんであんたが依ちゃんの怪我のこと知ってんだよ!
は…そりゃ悪いと思って…ああもうだから!
猿飛様がぐしゃぐしゃと自分の髪をかき回す。
お二人の間では会話は成立しているのだろうけども、風魔様の声が聞こえない私からは猿飛様がお一人で喋ってらっしゃるようにしか見えなく、何故猿飛様が怒ってらっしゃるのかが全くわからなかった。
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