甲斐に来て三日目の朝は昨日の晴天が嘘のように雨雲に覆われた空で、しとしとと雨が降っていた。


「シノ、ねーさまは大切なお話があるからいい子に待っていられる?」

「…いる」

「小助様の言うことちゃんと聞いて待ってられたら後でいっぱい遊ぼうね」


寂しそうにこくん、と頷くシノに少しだけ罪悪感を覚えながら小助様にシノをよろしくお願いします、と頭を下げ立ち上がる。

小助様は猿飛様の部下で共に真田十勇士と呼ばれる一人。様付けと敬語はやはり止められたけど聞こえなかったことにしてもらった。



―昨日と同じくお館様達と朝食をとらせていただいた私達は一度部屋に戻り、猿飛様始め忍の方々が調べてきてくださった商人の件についてのお話があるということで半刻後に再び集まるということになった。

それはともかく流石にシノは連れてはいけない。
けれど部屋に一人で居させるわけにもいけないということで小助様に面倒を見ていただけるようになったのだ。


「シノ様のことはおまかせください」

「人見知りをする子ですがわがままは言わない筈ですのでよろしくお願いします」


もう一度頭を下げ、シノの頭を一撫でしてから部屋を後にする。

降り続ける雨は、少しだけ弱くなっていた。







お館様が一番上座に、その両脇に政宗様と幸村様が向かい合うように、そして政宗様の隣には片倉様が座られている。

部屋に入った私はお館様にすすめられるがまま幸村様の隣にと片倉様と向かい合うように座った。


「佐助」

「はいよ」


お館様が呼ぶと同時に猿飛様がスッ、と現れる。毎回のことながらどうやっているんだろう。


「竜の旦那はどこまで聞いた?」

「全部だ」

「なら話は早いね。
―昨日、あの後俺様と忍数人で特定した商人の屋敷に行ったんだけど…」


猿飛様の目が、真剣なそれに変わる。


「死んでたよ」


ひゅっ、と息を呑む。
死んでた?商人が?


「どういうことだ佐助」

「どうもこうもそのまんま。商人は誰かに殺されて、屋敷にいた人間も恐らくシノちゃんの事を知っているであろう中枢部の人間は全滅。殺した後にすぐ放火したらしく殺された中枢部の人間以外は逃げ出して無事だったとはいえ…探りをいれたけど誰一人商人達が殺されたことに気付いてなかった」

「と、いうことは…」

「商人達を殺したのは相当腕のある忍だってことだね」


商人は殺された。
何故、何のために?
殺したのは忍…


「シノを狙う人物の仕業、ということでしょうか…?」

「そう思ったんだけど、ちょっと違うみたい」

「違う?」

「商人の屋敷、確かに火事はあったけど燃えたのは一部だけで、ちょっと漁ったら出てきたよ」


そう言って猿飛様が懐から取り出したのは布に包まれた―クナイ?


「昨日の連中が使ってたものと一緒」

「―――!」

「このクナイを使う忍はとある里の出の証。そしてその里の忍は雇い主に忠誠を誓う代わりにクナイを一本預けるんだ」

「…では昨日の忍を雇ったのはやはり…」

「うん。商人に間違いないと思う」



ならば尚更
何故商人が?



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