ひとまず商人を調べ上げることに決まり話し合いは終了した。

目を覚ましたシノとともに食事を取り、部屋に帰りそのまま布団に横たわる。


「(なんか疲れた…)」


お館様と謁見して、襲われて怪我して、昔の話して
沢山、泣いて…ああそうだ泣いたんだ…泣いたのなんて、どれくらいぶりだろう。じいさまが亡くなられた時だって泣かなかったのに。


「ねーさま、」


既に夢の中に旅立ったシノが寝言で私を呼ぶ。

何かを探すようにさまよわせている手を握ればにこっと笑うシノ。


「ねん、ねん、ころりよおころりよ」


いつだったか、前の世界で聴いた歌。
母親が赤ん坊を見ながら歌っているのを見ながら母親の目に浮かぶ感情について考えたのを覚えている。

あの頃はわからなかったそれが、今ではわかる気がした。

それは"愛おしい"という感情
慈しみに溢れたあの目を、シノと接する私はしているんだろうか。


「ぼうやのおもりはどこへいった
あの山越えて里へいった」


続きはなんだっただろうか。
静かに眠るシノには子守歌は必要ないと思いながらも最後まで歌えないのはもやもやした。



「―それは、お前んとこの歌か?」



不意に聞こえた声にバッと顔を上げると、少しだけ開いた襖の外に誰かがいるのがわかった。

低く柔らかいその声の主がわかった瞬間、シノと繋いでいた手を離し私は静かに襖を開けた。


「政宗様!」


今朝の襲撃からずっと休んでらした政宗様が何故?
いや、理由なんてどうでもいい


「まだ休んでらっしゃらないと…!」

「Ah…no problem。怪我自体は深くねぇし毒も殆ど抜けた。世話になったな」

「そんな…シノを庇っていただいて…」

「HA、あそこで庇わなきゃ男じゃねぇからな」


不適に笑う政宗様は少し付き合え、と縁側に座り私に告げた。

私は少し悩みながらも政宗様の隣に腰を下ろす。


「昨日、ここで歌ってただろ」

「昨日…」


ああ、昨晩シノにせがまれ歌ってたのを聴かれたのか。…恥ずかしい。


「珍しい旋律だな」

「…私の、生まれ故郷の曲です。ここよりずっと遠い場所の」


ずっとずっと遠くて、帰りたくても帰れない場所。
帰りたいとも思わないけれど。


「昨日の歌、もう一度歌ってくれ」

「え?」

「あんたの声は耳に馴染む」


そう、言われても人前で歌うのは恥ずかしく、とても緊張する。
けれど政宗様はシノの恩人で、怪我のために早くお部屋に戻っていただきたい。そして彼はきっと私が歌うまで帰ってくれないだろう。

私は小さく頷き、すうっと息を吸った。


「輝く星に
心の夢を
祈ればいつか叶うでしょう」


これは確か学校の授業で観たビデオで聴いた曲。凄く気に入って、ずっと歌ってた。


「―星に祈れば淋しい日々を光照らしてくれるでしょう」


最後まで歌いきり、恥ずかしくなって誤魔化すように手でパタパタと顔を扇ぐ。顔が、あつい。


「…いい曲だな」

「ええ、とても」

「題名はなんだ」

「星に願いを、です」


心地いい風につい目を細める。
明日はどんな1日になるのだろう。
願わくば、一時の平和を―

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