はい、と渡された冷たい手ぬぐいを受け取り目に当てる。
井戸水で冷やされたそれは熱を持った目元にちょうどよく、とても気持ちよかった。
私は目を冷やしながらとりあえず敵の特定と何故シノを殺そうとしたのかということについて話を進めようと座り直す皆様を見る。
あっと言う間にピリッとした空気に変わる4人に流石だな、なんて間抜けなことを考えながら。
「さっき依が言っておった通り、件の商人かシノを買い取ろうとした男、もしくは噂を聞いた人物であるのは間違いなさそうよな」
「商人や男はともかく噂を聞いた人物もというとキリがねぇな」
「取りあえず商人と男を探るのが先決でござるな」
幸村様の提案にお館様が頷きそれから私を見て「して、その商人と男とは」と問いかける。
「商人なら名前はわからなくてもふた月前に屋敷が火事に遭ったということで絞れるから、どこら辺の屋敷かだけわかる?」
「じいさまが出入りしてらした町ならばわかります。きっとそのどこかに…あ、その商人の娘が確かその町の呉服屋に…」
「ああ、それって弥助じいの家があった山のさ、」
「そうです、麓の…」
猿飛様は心当たりがあったらしく、あの娘のねー、とへらりと笑った。
「男の方はわかるか?」
「そちらも名前までは…ただとても身分の高い、骨董などを集めるのが好きな…欲しいもののためなら手段を選ばない男だと言っておりました。確か…」
思い出せ
確か何か大きなヒントを話していた筈…あっ
「伝説の忍…」
「―――!」
部屋にいた誰もがその言葉に息を呑んだ。
「シノを拾ってすぐに一人の忍が…その人にじいさまが"伝説の忍か…お前の主に言っておけ。シノに手を出すのなら容赦はしない"と、」
そうだ、あの時じいさまは確かにそう言っていた。
「松永か…!」
片倉様が苦々しくそう呟く。
「ああ、確かにあやつならやりかねぬ」
「しかしそれなら…」
「…うん。その線は消えたね」
猿飛様の言葉に「え?」と首を傾げる。
―松永は死んだから
▽
「松永の線が消えたならその商人か噂を聞いた人物ってなるんだけど…商人であって欲しいってのが本心かな」
「噂となると特定は難しいか…」
「一応、じいさまが情報操作されていたのでそんなに広まってないとは思うのですが…」
「弥助じいが?…そりゃ、俺様ですら聞いたことない筈だよ」
弥助の情報操作は日本随一だからな、と笑うお館様にそうなのか…なんてぼんやり考える。
何も知らないまま拾っていただいて、そして共に過ごさせていただいていたけど、実はじいさまは凄い方だったと知る度に誇らしいような、ムズかゆいような、そんな感覚になる。
これが家族なのかな
…だったらいいな
*← →#