大将の言葉に泣き崩れる依ちゃんは声を押し殺し、ただひたすら静かに泣いていた。


「…ああやって静かに泣いてたんだろうな。ずっと」


そんな右目の旦那の言葉に頷く。


「声を出して泣く方法を知らないんだろうね」


あの小さな体でどれだけの物を背負ってきたのだろう。
それを考えると、少しだけ胸が痛んだ。







不意に、頬を撫でる小さな熱に目を開けると、先ほどまで眠っていたシノが泣きそうな顔でこちらを見上げ私の頬を撫でていた。


「ねーさま、たいの?たいの、けーよ、たいのたいの、けー」


その言葉に静かにシノを抱きしめ、頭を撫でる。


「ありがとう、シノ。いたいのとんでっちゃった」

「ほんとう?」

「うん。ありがとう」


シノは私の言葉にへらっと笑い、ぎゅーっと私に抱きつくとそのまま再び眠りについた。


「いい子じゃな」

「…はい、とても」


人前で泣いてしまったという恥ずかしさから頬が赤くなっているのが自分でもわかった。
さっき感情に飲み込まれ…なんて偉そうなことを言っておいてこの様だ。恥ずかしい。

私の背負っている荷物をわけてくれないかと言って下さったお館様。
それを信じたいと、その言葉に甘えたいと、そう思ってしまった。

いいのかな、信じて
いいのかな、甘えてしまって


「…依殿が自ら頼ることが出来ぬのであれば某が無理矢理にでもその荷を奪いまする」


ずっと黙っていた幸村様が、ぽつりと言った。


「頼りがいがないとおっしゃるのならば頼れる人間になりましょう」

「幸村、様、」

「それでも無理だと言うのであればせめて二人の身の安全を守る役割だけでも某に任せてくれませぬか」


真っ直ぐとこちらを見つめ、真剣な目でそうおっしゃる幸村様にくしゃりと顔が歪む。


「…何故、そこまでよくして下さるのですか…?」


私は何もできないのに、
何も返せないのに
なんでそこまでしてくれるのか。それがわからなかった。


「某がそうしたいと思ったからでござる」


あっけらかんとした顔でおっしゃった幸村様に目を見開く。


「ぷはっ」


そんな私達に吹き出したのは猿飛様。


「あはははは!旦那最高!」

「な!何故笑うのだ佐助ぇ!」

「ね、依ちゃん」


顔を真っ赤にして怒られる幸村様をスルーしながら猿飛様が私を見る。


「旦那はこういう人だから逃げようったって絶対許してくれないよ。依ちゃんが折れるまでずーっと何か手伝おうってつきまとうんだから」


そう言って笑う猿飛様に、くすりと笑い、そして気付いた。


「経験者は語る、というやつでしょうか?」

「あはー、せーかい」


ああ、そっか
猿飛様がおっしゃるのであればそうなんだろう。
そこまで考えて私は部屋を見渡し、それから深く深く、頭を下げた。


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