これは私も実際に見聞きしていないことなのですが…


そう前置きして私は話を始めた。



「恐らく相手の目的は、シノだと思います」

「シノちゃん?」

「シノはじいさまに拾われる前まで、とある商人のところにおりました」


じいさまから聞かされたシノの生い立ち。
それは思い出しただけで泣きたくなる、そんなものだった。


「シノ殿はその商人の子、ということでござるか?」

「いや、商人の所におったという言い方をしておる。つまりシノは何らかの理由で両親と引き離され商人に引き取られたということであろう」

「…そう、なります」


けれどそれは少しだけ違うんだ。


「シノの両親は誰も知りません。シノはある日突然とある村に現れ、そして商人に売られた子なのです」

「…ある日突然、って?」

「―――光の中から、降ってきたと。そう聞きました」


私の言葉に、お館様は目を見開き、幸村様は首を傾げ、猿飛様は怪訝そうな顔をし、片倉様は真っ直ぐと私を見ていた。


「とても信じていただけない話だとは思っております。けれどひとまずは全て話させていただきます」


そう、苦笑してから再び口を開く。


「光と共に現れたのシノを拾ったのは貧しい老夫婦だったそうです。それが2年前の話になります。それからシノは天の遣いでは、神の子なのでは、その様に言われ、そして…商人に、売られました」

「……!」


幸村様が、息を飲まれる。


「シノを引き取ることで商売が繁盛するとでも考えたのでしょう。老夫婦は喜びました。子供を拾いその子を引き渡す代わりに沢山のお金が手に入るのですから。それこそあの子は神の遣いだったのだ、なんて大喜びだったそうです」


自分の子ではないただの拾い子。引き渡すのに躊躇いなんてなかっただろう。


「そうしてシノは商人の家に行きました。最初はそれなりにでも世話をしてたのでしょう。
けれど一向に繁盛しません。
シノは蔵に閉じこめられました」


いまだにぐっすり眠るシノの頭を撫でる。


「ロクに食事も貰えなかったようです。それどころか暴力もふるわれていた、と。
そうして2年近くが経ちました。
ある日、商人のもとにひとりの男が現れ、シノを引き取りたいと。どこからか噂を聞いてきたのでしょう。神の遣いがいる、と。商人は喜びました。自分が老夫婦に払った何倍もの金を積まれたのですから。
けれどシノはやせ細り傷だらけ。そんな姿を見られたら自分達がシノをどんな扱いにしてきたかバレてしまいます。そうしたら神の遣いではないということも」


なんとも勝手な話だと思う。
勝手に勘違いし引き取って話が違うとシノを虐待し、そして売り飛ばそうとし懸念するのはそんなこと。本当に、腹立たしい。


「そして商人は男に言いました。時間が欲しいと。せめてシノの傷が治るまで待つつもりだったのでしょう。けれどその夜、商人の家は火事に遭い、薬売りとして町に出るうちに噂からシノのことを聞きずっと機会を窺っていたじいさまにシノは攫われました」


それがシノにとっての地獄の終わり
そして私たちにとっての全ての始まりだった。


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