どこか遠くを見つめながら何てことないかのように語られるその内容に、部屋中は静まり返っていた。
猿飛によって暴かれた傷痕。それはあまりに多く、そして痛々しいものだった。
先程あいつはシノを「愛を知らない子」と言ったが、あいつこそそうなのではないかと思うほどにその傷は深く感じられた。
「今、両親は?」
「生きているとは、思います。けれどどうしているかは…」
そこで初めて苦笑という表情らしき表情を浮かべる依。その目は嘘を言っているようには到底見えなかった。
▽
自分の境遇を話すのは苦手で、何をどう話していいのかわからないまま話してみたけれど、これではまるで悲劇のヒロインみたいで落ち着かない。
確かに多少不幸な生い立ちであったかもしれないけどその分今が幸せだから採算はとれてるんだ。
だから、
「そんな、お顔をさせたくはなかったのですが…」
悲痛そうに顔を歪める幸村様に眉を下げて微笑む。
「依殿は全て他人事のように話される。淡々と、泣きもせず。何故そんなに…!」
「…過去を嘆いても変われぬのです」
「変わ、れぬ?」
泣きそうな顔の幸村様にゆっくりと頷く。
「先程申しました通り、私は今とても幸せなのです。十分、採算がとれているくらいに。
そこからどう変われるかは私自身の気の持ちようで…だけど今はまだ、あれを主観的に話せる程には強くなれてないのです。
主観的に話したら最後私はまた過去に捕らわれるでしょう。同情を誘いお涙頂戴とばかりに自分を悲観し続けるでしょう。それでは駄目なのです。
この子を無事に育てるためにそんなことを嘆いている暇はありません」
私は変わらなきゃいけない。
シノのためにも、自分のためにも。
「過去を嘆いてあの頃のまま自分に閉じこもっているのではなくあの頃の私はあの頃の私とし、少しずつ向き合っていくくらいでなければ私は駄目になってしまうでしょう。それに…」
「それに?」
「私は、これで結構頑固で自尊心の強い人間なので自分の感情に飲み込まれ無様に泣き喚く真似はしたくないのです」
くすりと、茶化すように話す私に幸村様はきょとんと目を見開いてから「強いのか弱いのかわからぬお方だ」と笑った。
…さて、これからが本題だ。
「皆様にお話しなければならぬことがあります」
「…話さねばならぬこと?」
「本日の襲撃は私たち姉妹を狙ったもの、でしょう?」
幸村様が息をのみ、片倉様と猿飛様が目を鋭くされる。
「心当たりが、あるの?」
「…なきにしもあらず…いえ、あります。
けれどそれが原因だとするとどうしてもわからぬ点があり…ですから私が知っていることを、包み隠さず話させていただきます」
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