幸村様とお館様の殴り愛による部屋の崩壊を直す間、私たちは一度部屋に戻ることになり政宗様(こう呼ぶように、と)と片倉様、シノ、幸村様(邪魔だからどっか行ってて!と猿飛様に追い出された)と共に与えられた部屋へと歩いていた。
「素敵なお庭ですね」
「お館様の自慢のお庭でござる」
自慢気に頷かれる幸村様の斜め後ろを歩きながら綺麗なお庭を眺める。
「おんもー」
「おんも、とは?」
「外のことだな。庭に出たいのか?」
片倉様は幼子の言葉にも理解があるようでシノの言いたいことをよく汲み取って下さる。
シノは片倉様の言葉にはにかみながらこくん、と頷いた。
人見知りの気があるシノは私以外の前ではあまり喋らなくなる。
「シノ殿はおんもが好きでござるか?」
「…すき」
「では、庭を案内いたしましょう」
幸村様は猿飛様が居られないからか相変わらずの敬語で話される。
そんな幸村様に「申し訳ございません、」と頭を下げ、それからシノの頭を撫でた。
「シノ、お礼は?」
「んと、あーとね」
「oh…so cute!」
政宗様の言葉に思わず吹き出しそうになるのを抑えて首を傾げておく。英語には、反応しないようにしなくては。
「歳はいくつなんだ?」
「三つです。まだまだ、目が離せなくて」
「だが一番可愛い時期だな」
幸村様と政宗様と共に庭に出てきゃっきゃとはしゃぐシノを見ながら目を伏せてふ、と笑う片倉様に私も微笑んだ。
「先程の」
片倉様がぽつりと呟かれた言葉に顔を上げる。
「信玄公との話だが、お前とシノは姉妹じゃないんだな」
「はい。私もシノも、別々にじいさまに拾われた人間なのです」
「なのになんでそこまで自分を懸けれる」
そんな片倉様の言葉に、伊達様に頭を撫でられているシノを見る。
なんで、なんでか…
「シノは、愛を知らぬ子だったのです」
「…愛を?」
「じいさまに拾われるまで、笑うことも、話すこともなかったと…同情かもしれません。自分と、重ねていたのかもしれません。最初は確かにそういった感情だったのです。けれどじいさまに抱かれぐったりとしながらこちらを見たシノを目を見た途端、つよく惹かれたのです」
生きることを諦めていない、あのまっすぐな目を見たときから。
「それからともに過ごす内に表情が増え、言葉も覚え、自己を主張するようになり…あの子が可愛くて可愛くてしょうがなくなって…ただ、それだけなのだと思います。私はシノが可愛くて、愛おしくて、だから守りたい。幸せになってほしい。それだけなんだと…」
自分勝手な感情だけども、心からそう思う。
「…男女の違いか、立場の違いか、」
「え?」
「自分と政宗様も同じようなもんだったが、考え方が同じように思えて僅かに違う」
「…私のは母性本能に近いですから」
政宗様と片倉様の間にどんなことがあったのかはわからない。
けれど今、目の前でシノや幸村様とはしゃぐその笑顔を見て、シノもこんな風に笑える人間に育ってほしいと、漠然とそう思った。
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