武田名物"殴り愛"が始まり、被害を受けないよう部屋の隅に避難しながらさばああああ、むらああああ、と真似をしているシノの口を塞ぎながら私の隣で頭を抱える猿飛様を見る。


「本当さぁ、いつものこととは言え誰が片付けるんだって話だよねぇ…」


遠い目をしている猿飛様に後でよく効く胃薬を差し入れしようかな…。


「ねーさま」

「ん?何、シノ」

「にぃ、たいの、たいの、てけー」


そう言いながらシノが必死に手を伸ばしている先は奥州の…伊達様。


「あ、こら、やめなさいシノ!」


慌てて叱るけれどやめずに「たいのー、たいの、てけー!」と伊達様に手を伸ばすシノ。


「Ah…どうかしたのか?」


壁に背中を預けるように立ってらした伊達様がシノに視線を預けるようにしゃがみこむ。


「依ちゃん。
たいの、ってなに?」

「痛い、と…どこかお怪我を…?」

「いや、してねぇな」

「眼帯を、包帯か何かと間違えてるんじゃないでしょうか」


片倉様のお言葉に成る程、と頷く。
確かに子供からみたらそうなってもおかしくない。


「Hey girl、これは傷じゃねぇから大丈夫だ」

「いたいない?」

「ああ」

「たいのてけーいらない?」

「うん、いらないって」


伊達様を見て首を傾げ、それから私の方を見て首を傾げるシノにそれぞれ頷けばはにかむように笑い私の首に腕をまわすシノ。その頭を撫でながら「申し訳ございません」、と伊達様に頭を下げる。


「いや…それより"たいのてけーって"なんだったんだ?」

「おまじない、なのです」

「たいのてけーって?変わってるね」


猿飛様の言葉にいえ、と返しくすりと笑う。


「まだ幼くて口がまわってないのですが、痛いの痛いの飛んでいけ、と言ってるつもりなんだと思います」

「成る程な、まじないか」

「前に私が村の子に使っているのを見て覚えたのかと…もしかしたらそれで子供が泣き止んだのでまるで私が魔法を使ったように思ったのかもしれません」


自分でやるんではなく、私にまじないをするように訴えていましたから、そう言った私に答えるようにシノが腕の力を強めた。

「優しい子だな」

「…ええ、とても」

「女の子ってこんな感じなんだねー、旦那はやんちゃすぎてもう…物は壊すしすぐ泣くし」

「政宗様もだな」

「Shit!一緒にすんじゃねぇ!」


こう言ってはなんだがお二人がやんちゃだったのはなんとなくわかる気がする。
幸村様なんかは、特に。


「佐助ぇ、血が止まらないでござる」

「ええ!?もう、何やってんの旦那!」


頭から血をだらだらと流す幸村様のもとに飛んでいく猿飛様に心の中で手を合わせ、シノの目をそっとふさいだ。


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