ポケットに入っていた飴で杏ちゃんのご機嫌を取りながらガランとしている店内を見る。


「休日なのにお客様が…」

「あぁ…今日は一段と人が少ないんですよね…」


遠い目をする小鳥遊君の言葉によくこれで何年も続けられるよな、この店。なんてしみじみ思う。


「杏ちゃんに言わなきゃいけないこと言ったしそろそろ帰るね」

「あ、そういえば今日シフト入ってないんですよね、牧野さん」

「う、うん。忙しそうなら働いてこうかとも思ったけど…必要ないみたいだし」

「…なんで私の後ろに隠れるんだ」

「うわぁぁ人見知りなんだよごめんなさい…!」


さっき我慢したのに結局杏ちゃんの後ろに隠れてしまった。
いや、でも会話出来た。出来ただけ進歩…!


「人見知りだったんですか…」

「極度のな」

「いや、でも良くなったんだよこれでも…顔見れるようになったしあまりどもらなくなったし…目は見れないけど」


小鳥遊君は年下だからそこまで苦手じゃない筈なんだ。たださっきうっかり目を見ちゃって一気に人見知り発動しちゃっただけであって…うんぬん。


「出来るだけ気をつけるけど不快にさせたらごめんね…」

「いえ、誰かさんみたいにすれ違っただけで殴りかかったりするわけじゃないんですから大丈夫ですよ」

「…伊波さんのことかな」


あー…男の人が苦手なんだっけ?よく殴られてたもんな…最近あんまり殴られてないみたいだけど


「あ、そういえば…小鳥遊君、可愛いもの好きって聞いたんだけd」

「大好きです!」


く、食い気味に肯定された…


「さっき休憩室に…」

「すずりちゃん!」


ぬいぐるみのことを告げようとしたところに現れたのは同じフロア担当で同級生でもある種島さんだ。


「これ、本当に貰っていいの!?」


そう言って彼女が見せたのは葵ちゃんに渡した袋の中に入れたスカート。余った布で作ったはいいがやはりサイズが小さくてタンスの肥やしになっていたものだ。


「葵ちゃんが好きなの持って行っていいってすずりちゃんが言ってたって…」

「うん…手作りだから完成度があれだけどそれでいいなら」

「手作り!?すごーいすずりちゃん!」


種島さんの言葉に顔が熱くなるのがわかる。は、恥ずかしい…褒められ慣れてないからこう真っ直ぐ褒められると弱いのだ。


「じゃぁもしかしてあのぬいぐるみとかも?」

「ぬいぐるみ!?」

「うん!かたなし君が好きそうなぬいぐるみがいっぱいあったよ!」


俺ちょっと休憩室行ってきます!と言って消えた小鳥遊君を追いかける様に居なくなる種島さん。


「…すずり」

「…なに、杏ちゃん」

「お前も行け」

「…はい」


はぁ、と溜め息を吐きながら休憩室へと足を向けた。




「くま!うさぎ!ひよこ!」

「わぁ!このスカート可愛い!」

「ずるいです小鳥遊さん!それ半分は山田のです!」


こんなに騒ぎになると思わなかったんだ。

誰に言うでもなく心の中で言い訳する。


「すずりちゃん!これも手作り?」

「それは…うん。そうだよ。
そっちの二着は違うけど…」

「牧野さん!こ、これ本当に手作りですか!?」

「う、うん…一応」


いつになく高い小鳥遊君のテンションに押され気味になりながら頷く。なんだろ…本当にぬいぐるみとか好きなんだ…


「すずりさーん!小鳥遊さんがぬいぐるみを一人占めします!」

「あー…二人ともまだぬいぐるみ家にいっぱいあるから…」

「牧野さんの家はなんですか楽園ですか!」

「いや、ただのマンションです」


なんかここまで喜ばれるとは思ってなかったから凄く嬉しい、かもしれない


「おい、騒いでないで仕事しろ」

「佐藤さん」


収集がつかなくなってきた所に来てくれた佐藤さんにほっと息を吐く。正直助かった。

佐藤さんの登場に休憩中らしい種島さん以外の二人は渋々フロアに戻っていく。小鳥遊君がちゃっかりひよこのぬいぐるみを持って行ったのについ苦笑してしまった。


「昨日は本当にありがとうございました…」

「いや…それより何の騒ぎだこれ」

「見て見て佐藤さんこれ全部すずりちゃんの手作りなんだって!」


凄いよね!とはしゃぐ種島さんの頭を抑えつけながら手作り?と机に並ぶ服やらぬいぐるみやらを眺める佐藤さん。

私は机のあまりの惨状にそれらを適当に端に寄せる。


「これも手作りか?」


これ、と言うのはシリコンで作ったマカロンが付いたストラップだ。


「えっと…はい」

「器用なもんだな…」

「本当に貰っちゃっていいの?」

「うん。欲望のままにどんどん作ってたら置き場がなくなっちゃって…押し入れにまだいっぱいあるんだよね」


本当はフリマとかで売れればいいんだけど人見知りな私にはハードルが高すぎるのだ。


「私自身はあんまり可愛い物とか身に付けないから押し入れにしまわれるより貰ってもらった方が作った人間としても嬉しいし」


作るのが好きなだけで個人的な好みとしてはシンプルな物が好きだから。


「こんな可愛いぬいぐるみとかがいっぱいなんてさっきかたなし君が言ってたようにすずりちゃんのお家楽園みたいだね!」

「いや、だから普通のマンションだけど…」


ここに持ってきたのは洋服とぬいぐるみ、シュシュやヘアゴム、キーホルダーだけど家にはまだまだ色んな物がある。
葵ちゃんにはお店みたいって言われたな…






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