焼き鮭に豆腐とわかめのお味噌汁。ほうれん草のおひたしに卵焼き、そして納豆。
手抜きだけど典型的な日本の朝ご飯の出来上がりだ。


「山田納豆大好きです!」

「そっか。それはよかった…はい、どうぞー。葵ちゃん今日は午後からだっけ?」

「はい!」


じゃぁもう少しゆっくりできるかな?
私はバイトないけど定期取りに行かなきゃいけないし、そうじゃなくても葵ちゃんを送らなきゃだから一緒に店まで行こう。

昨日、帰宅してから寝るまでの間沢山お話して山田さんを葵ちゃんと呼ぶまでになった。大きな前進だ。


「すずりさんは仕事が出来て裁縫が得意で料理も上手いなんて凄すぎます。山田すずりさんを目指します」

「いやいや、私なんて目指しちゃだめだよ…」


ただの人見知りな半引き籠もりなんだから。
…あぁ、真人間になりたい。

朝食を済ませ身支度の時間。
葵ちゃんはバイト着しかないので自然と私の洋服を貸すことになるのだが…私は163cmとそこそこの身長だけど葵ちゃんはなかなかに小柄。しかも華奢だから私の服は果たして合うのかどうか


「葵ちゃん服のサイズどれくらい?」

「SかMです!」

「そっかぁ…あ、これなら合うかな?」


クローゼットから引っ張り出したのは一枚のワンピース。
本当はマキシ丈だったのだけど転んだときに駄目にしちゃってリメイクしたはいいものの丈が短くてタンスの肥やしになっていた代物だ。


「山田にぴったりサイズです」

「良かった。
その服着ないからあげるよ。ついでにそういう服他にも何枚かあるからよかったら持って行って?」


クローゼットから着れないものを入れてある袋を取り出し、ついでに自分が作った服なんかもいくつかその袋に詰めていく。


「中身見てサイズ合わないのとか好みじゃないのは私のロッカーの中に入れて置いてくれればまた持ち帰るから」


あ、あと


「葵ちゃんの周りにぬいぐるみとか好きな人、いるかな?」

「います!」

「本当?なら…」

「小鳥遊さんです!」

「ええええ」


そういえばいつも種島さんを可愛いって言って愛でてるけど…聞けば可愛いものと小さいものが大好きで12歳以上には興味がないという。…それって大丈夫なのかな。


「じゃぁぬいぐるみとか…貰ってくれないかな…」

「きっと喜びます。他には何か作ってるものとかないんですか?」

「あとはシュシュとかヘアピンとかのヘアアクセやペンダントとか…」


無駄に色んなものに手を出しているからなぁ。

そんな話をしながら葵ちゃんの髪をポニーテールにしてシュシュを付ける。髪の毛さらさら…羨ましい。




葵ちゃんの提案で服やぬいぐるみ、ヘアアクセは小物を幾つか袋や鞄に詰めて家を出る。誰も貰ってくれなかったら葵ちゃんが全部貰ってくれるという。可愛いなぁ、葵ちゃん。

マンションの前のバス停からバスに乗り、ワグナリアから100m位離れたバス停で下車。

従業員出入り口から入ってそのまま休憩室に入る。


「ちょっと杏ちゃんとこ行ってくるね」


葵ちゃんに声を掛けて休憩室を後にし、杏ちゃんを探す。一番混み合う時間が過ぎたからか店内はすいていて従業員も暇そうにしている。


「杏ちゃん」


そんな中にパフェを貪っている杏ちゃんを発見し声を掛ければ杏ちゃんはいつもの無表情で、だけど少し驚いたようにこちらを見た。


「昨日、葵ちゃんがいるか確認しないで鍵閉めたでしょ」

「…寝てたんじゃなかったのか」

「閉め出されてた。昨日はたまたま家に泊めれたけどちゃんと確認してあげなきゃ」


人一倍寂しがり屋な子なんだから。


「あ、あの…杏ちゃんって…?」


そんな私と杏ちゃんの会話に恐る恐る入ってきたのは小鳥遊君だ。
思わず杏ちゃんの後ろに隠れかけたけど我慢した自分偉い。


「なんだ、なんか文句あるのか小鳥遊」

「いや、文句っていうか」

「従姉妹、なんだ。杏ちゃんと私」


かみ合わない二人に苦笑しながら答えれば小鳥遊君は「従姉妹!?」と大袈裟に驚く。そんなに意外か?


「あれ…でも普段は店長って」

「一応、バイト中は公私を分けようかと…」

「気にくわないがな」

「まだ言ってるの?」


杏ちゃんは私が杏ちゃんを店長と呼ぶのが気にくわないらしくバイトを始めた当初も呼ぶ度にムッとされた。
店長って呼ぶのはバイト中だけなのに。







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