はぁ、とため息を吐きながら街灯の灯りを頼りに夜道を歩く。


「今日も上手くいかなかった…」


仕事はそこそこ出来る方だとは思う。少なくとも周りに迷惑を掛けない程度には。

問題は人間関係だ。

人見知りが激しくてバイトを初めて1か月経つ今でも他のスタッフとまともに会話を出来ていないのは流石に如何なものか…しかし人見知りというのは治そうとして治せるものではないから困っているわけで。


「明日は誰かと話せたらいいな」


って、あ…
携帯を取り出すために覗いた鞄に違和感


「定期券がない…」


店に忘れちゃったか…別になくてもバスは乗れるけどできるだけ無駄な出費はさけたい。

店はもう施錠しちゃっただろうから中には入れないけど店に電話したは山田さん出るかな?出たら中から開けてもらおうか。

そう思い至り店に電話をするが誰も出ない。
もう、寝ちゃったかな?



「あれ、そういえばさっき出掛けてなかったっけ」


その後姿を見ていない。もしかしてしめ出されたり…もしそうだったら困るよな…


「行ってみて、大丈夫だったら戻ればいっか」





そう考えて店に戻ってみればやっぱりというかなんというか山田さんの泣き声が聞こえ慌てて従業員出入り口へ向かう。


「山田さん?」


大丈夫?なんて声を掛けつつ角を曲がると山田さんと、何故か佐藤さんがいて思わず固まってしまう。やばい、佐藤さんとは挨拶くらいしかしたことがない…!


「牧野?」

「牧野さん!」


ぎゅぅっと抱きついてくる山田さんを受け止めながらびっくりしたように(とは言え表情が薄いからわかり辛いけど)こちらを見ている佐藤さんにへこりと頭を下げる。

山田さんは何度か話したことがあるからまだ大丈夫だ。


「どうしたんだ、こんな時間に」

「あー…忘れ物をしたんで山田さんに中から開けてもらおうって思って店に電話したら出なかったから…」


もしかして閉め出されてないかなって思って、と説明すればどうやら佐藤さんも同じく山田さんが閉め出されてるんじゃないかとわざわざ戻ってきたらしい。
や、優しい。


「店入れないよね。
山田さんが嫌じゃなかったら家、くる?」


嫌ならどっかで時間潰すの付き合うし、あれならお金貸すからどこかに泊まっても…と言えば山田さんはバッと顔を上げ「牧野さんの家にお泊まりしたいです!」とキラキラした目で私を見る。


「家ちょっと遠いけど大丈夫?」

「大丈夫です!山田、体力はあります!」

「じゃぁ真面目に仕事しろ」


ぺしん、と佐藤さんに頭を叩かれる山田さん。
…山田さん、仕事しないもんね…


「牧野」

「っ、はい!」

「家どの辺だ」

「えっと、○×デパートのすぐ近くです」


ここからなら歩いて四十分、バスで十分くらいの所だ。


「送ってく」

「え?」


ええええ、と戸惑っている内に山田さんが意気揚々と私の手を引っ張り佐藤さんの車に乗り込むから私も拒否する暇なく気が付けば佐藤さんの車に乗り込んでいた。


「すみません…わざわざ」

「別に、おんなじ方向だし気にすんな。そもそも悪いのは山田と店長だ」

「山田は悪くないです!」

「うん。杏ちゃんにちゃんと確認してから施錠するように言っておくね」


私の腕にくっついている山田さんの頭を撫でながら言うと何故か一瞬車の中の空気が固まった


「杏ちゃん…?」

「杏ちゃんって店長のことですか!?」

「ああ…びっくりした、なんか変なこと言っちゃったのかと…。そうだよ。従姉妹なんだ、私と杏ちゃん」


その言葉にあまりに二人が驚くものだからつい小さく笑ってしまう。
そっか、誰にも言ってなかったもんな。


「で、でも普段は店長って…」

「バイト中はあくまで店長と従業員だから…。一応ね」


公私を分けるために"店長"と呼んでいるんだ。杏ちゃんはなんか不満気だけど…


「山田びっくりです」

「あはは…従姉妹だから顔も似てないし名字も違うもんね。私がバイト始められたのも杏ちゃんが店長だからだし」

「え?」

「人見知り、激しいから知り合いがいないところは厳しいんだ」


助けて貰うとかそういうのを抜きにしても知り合いはいるだけで心強い。知り合いがいない職場は…考えただけで胃がきりきりしてきた…


「人見知り…だから山田以外とはあまり話せないんですね!」

「情けないことにね…会話を長続きさせるのが苦手で」


轟さんや種島さんはよく話掛けてくれるけどいつも当たり障りのないことしか話せない。
山田さんは年下だしすぐ表情に出るから話していて楽な部類の子なんだ。


「これでも少し慣れたんだけどね」


顔を見て話せるようになった。
顔が引きつらなくなった。
…どれも最低ラインの話だけど。

家まで送ってくれた佐藤さんに何度もお礼を言ってから山田さんを連れマンションの二階にある我が家へ。


「ごめんね、ちょっと散らかってるけど…」


玄関の鍵を開け先に山田さんを中に入れ、次いで自分も中に入り鍵を閉める。
一人暮らしの我が家はそれなりの広さの1LDK。予備の布団もあるし一晩位なんとかなるだろう。


「わ、ぬいぐるみがいっぱいです」

「あー、やっぱり散らかってる…。ごめんね、バイトの直前まで作業してたから」

「作業?」

「…それ、私が作ったんだ」


キョトリとしている山田さんに恥ずかしさから目を反らしながら告白。


「ええ!」


あぁ、やっぱり驚くか。キャラじゃないしなぁ。


「凄いです!山田尊敬します!」

「ありがとう。さ、もう遅いし今日はお風呂入って寝ようか」




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