そういえば今日は日直だったと気が付いたのはSHRが始まる少し前だった。
あ、日誌…いっか、後で。担任は緩い人だからきっと怒られないだろう。
隣の席の子はいつものように鼾をかいて寝ているから私がほとんど仕事をすることになるかな。
ま、いいか。
三時間目の先生はわざと高い位置に問題を書く。そしてそれを女生徒に解かせて解答を書こうと背伸びをする姿を見てにやにやするとんだ変態なのだ。先生女性だけど。
そして筆圧が強い。よくチョークを折るくらい強い。
つまり、だ。
「き、消えない…」
目一杯背伸びしながら必死に消そうと試みるがギリギリ届く程度。そんな力じゃ消せるはずもない。
隣の席の彼は爆睡してたしでも消せないしだけど次の授業の先生うるさいし…
どうしようかと頭を捻りつつ再び背伸びをしようとした、その時
ひょいっと横から伸びてきた手が必死に消そうとしていた文字を意図も簡単に消していった。
「え?」
きょとんとしながら横を見れば先程まで爆睡していた筈の隣の席の彼が黙々と黒板の文字を消していて。
「っし、こんなもんか」
「え、あ、ありがとう…」
「や、俺も日直らしいし…わりぃ、気付かなかった」
「ううん、私も言わなかったしね。火神君部活忙しそうだから眠いのわかるし」
隣の席の彼…火神君は確かバスケ部な筈。朝会の時に屋上から叫んでたし。
バスケ部は毎日部活が大変だと聞いたから、なんとなく寝ている彼を起こせなかったのだ。
「あーくそ、黒子のやつ思い切り殴りやがって」
「黒子君?」
「寝てたら頭殴られたんだよ。辞書で」
「辞書で!?」
え、え、黒子君ってこう言ったらあれだけどちょっと(かなり?)影が薄いけど基本的に温和(冷静?)な人だよね。辞書で殴るって…あ、やりそうかもしれない。
聞けば私が必死に黒板を消しているのを見て火神君を起こすという行動に出たらしいのだが起こし方がバイオレンスだ。男子ってそんなもんなのかな。
「次の時間からは俺が消す」
「え、もうあんなに高いとこ書く先生いないから平気だよ」
「そん代わり日誌書いてくんねえ?」
「んん?うん、それは書くつもりだったけど…」
まあ、仕事減るならいっか。
私の口癖はこの「ま、いっか」というやつで四歳の時に使い出してから今に至るまでま、いっか精神で今までやってきた。深く考えるのは苦手なのだ。
「じゃあ黒板はよろしくお願いします」
へこりと頭を下げて一回笑ってから席に戻る。と、ほぼ同時にチャイムが鳴ってしまい先生が教室に入ってきたから黒子君に礼を言えなかった。ま、後でいっか。
授業も終わり昼休み。
先生が退室してから斜め後ろの席を振り返った。
火神君は宣言通り黒板を消してくれている。私も手伝おうとしたが断られた。
「黒子君」
名前を呼べば黒子君はきょとんとしながら(表情はかわらないから多分、だけど)なんですか?と首を傾げた。
「さっきの休み時間ありがとう。火神君、起こしてくれたって」
「ああ…日直なのに爆睡していたから起こしただけなので気にしないで下さい」
「うん。でも助かったから」
ありがとう、ともう一度お礼を言って飴を2つ渡す。
「あげる。部活終わりにでも食べてよ」
それだけ告げて「おなかすいたー」といつも一緒に食べている友人のもとへ向かうのだった。
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