シンドバッド王の帰還と共にやってきた仕事の山がようやく越えられた、という頃。

就業時間を終え、一緒にご飯を食べようとピスティ様に誘っていただき食堂へ向かう途中、シンドバッド王に会いずっと先送りになっていた私の国の話を聞かせるという約束を果たすため夕飯をご一緒することになった。

するとシンドバッド王と一緒にいらしたジャーファル様もそれを聞きたいとおっしゃり、それならば、とピスティ様がどこからか連れてこられたスパルトス様とヤムライハ様、シャルルカン様も加わって、あれよあれよと言う間にマスルール様とドラゴーン様、ヒナホホ様を除いた八人将が勢揃いしていて。


「(どうしてこうなった…)」


内心泣きたくなりながらもシンドバッド王率いる皆様に連れられ背中に視線を感じながら街を歩く。


「どうしたの?きょろきょろして」

「あ、いえ…そういえば王宮から出るのは初めてだな、と」


ただの居候だった頃はあまりうろちょろしない方がいいだろうと外に出ないようにしていたし、食客としておいていただくと決まってからのこの数日間は忙しすぎてそんな暇もなかったから、シンドリアの街を歩くのはこれが初めてだった。

それを伝えるとヤムライハ様とピスティ様、それからシャルルカン様と何故かシンドバッド王にまでそれはいけない、何故今まで言わなかったのだと、とにかくひどく驚かれてしまった。


「あ、じゃあその服は?」


ヤムライハ様の問いかけに、ああ、と今着ている洋服を見下ろす。
白地に金の刺繍がちょっとだけ入った薄くてシンプルなトップス(チョリ、と呼ぶんだったか)と、足首でしぼられている青のパンツ。


「これは少しはお洒落をしろとターヤさんが…」


何故だか私を娘のように思ってくれているらしいターヤさんがある日突然買ってきてくれたのだ。
申し訳ないといってもマッサージの礼だ、と聞いてくれず、これの他にも二着も貰ってしまった。

しかも女性の肌の露出が多いこのシンドリアの中からなるべく肌を隠せるものを見繕ってきてくれたというのがまた申し訳なくて…何よりデザインが私の好みだという辺りがもう。
噂によるとハンナさん始め侍女の方達も一枚噛んでいるらしい。

ヤムライハ様やピスティ様、それからシンドバッド王も会って第一声に洋服を褒めて下さったから似合ってなくはない、と思いたい。


「でもやっぱりズボンなのね」

「ドレスも一着いただいたのですがやっぱりこっちの方が動きやすくて…」


そんな会話をしながら案内されたのは皆様さん御用達だという料理屋さん。

とりあえず食事を…と適当に頼んでもらいながらぐるりと店を見渡す。
あまり大きくはないけど暖かい雰囲気が素敵なお店だ。


「あ、そうだすずり!」

「はい、なんでしょう」

「敬語っ」


私の斜め前に座りぷくっと頬を膨らめ私を見るピスティ様に「でも…」とチラリと正面に座るシンドバッド王を見ればピスティ様の正面に座るヤムライハ様が「大丈夫よ」と頷く。


「…わかった」


ふ、と笑って敬語を止めれば途端に笑みを浮かべるピスティ様。
友達なんだから敬語はいらない、という二人にせめて就業時間中は、と条件をつけて普段は敬語をつかうようにしているのだけど今は就業時間外だしいいだろう。


「(なにより、ピスティとヤムが笑ってくれるから)」


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