「723、1014、621、909、603!」

「3870」


積み上げられた書物の整理をしながらターヤさんの読み上げる数字の合計額を答える。
それを何度か続けたら今度は違う人の読み上げる数字。
計算している間も手は止めない。
書物の整理が終わったらインクが少なくなってきている人の机を周り中身の減った瓶を回収し代わりに中身を注ぎ足した瓶を置いてまわる。回収した瓶はインクを注ぎ足していつでも配って歩けるようにして、それから…脳味噌をフル回転しながらふう、と息を吐く。


――あの日、結局私がなんの食客になるかは未定ということになり、翌日からシンドバッド王が遠征に出掛けられたため私はヤムライハ様とピスティ様の手伝いをして過ごしていた。

そして昨日、シンドバッド王が新たな移民を連れて帰ってきたことでジャーファル様初めて文官さん達の仕事が山積みになってしまったことからターヤさんに頼み込まれて今日は朝からずっとここお手伝いにまわっていた。

とはいえ正式な食客でもない私が書類やなんかを見るのは気が退けるので雑務しか出来ないわけなのだけど。


「あああああ計算が合わない!」

「すずり!」

「はい!えっと…あ、ここの数字が間違ってます。21じゃなくて210ですね」


この世界に来てから、学生時代習ってきた算数や数学の知識がいかに必要とされるものかわかった。
こんなの社会に出たら絶対使わないだろとか文句言ってごめんなさい数学の山本先生。

この世界は電卓もなければパソコンもない。つくづくあの世界にいた頃の私は恵まれていたのだと気付く。あの頃もっと勉強していればよかった。

お茶を入れたり人から人へ巻物を運んだり計算したり。
ふと気がつけばピスティ様と…シャルルカン様、だったろうか。褐色の肌の方が鬼気迫る顔でペンを握っているジャーファル様を見てあわあわしているのが見えた。
…もしかして手伝いたいけれど何をしたらわからない、という状況なのだろうか?

施設にいた頃の弟達がしていた表情とそれが被ってついそんな事を考えてしまう。

何か用事があるのかもしれない。
ならば、とこちらに気付いたピスティ様に頭を下げて駆け寄る。


「すずり!」

「こんにちは。ジャーファル様ですか?」

「ううん、あのね、ジャーファルさんもすずりも凄く大変そうだったから手伝おうとおもったんだけど私もシャルも頭良くないから何して良いかわからなくて…」


予想が当たったことに少しびっくりしながらも「そうなんですか…」と呟く。
こういう場合は手伝ってもらった方がいいのだろうか。けれどお二人は八人将様なわけだし…ううん…。


「ねぇすずり!何か手伝えることある?頭は良くないけどなんでもするよ!」

「オレも力仕事くらいは出来るぜ!」


そう言って意気込む2人に、そう言って下さっているのなら下手に遠慮しない方がいいだろう、と結論付け、部屋を見渡す。


「私も手伝いの身ですから指示が出来るほどではないのですが…書庫に返さなければならない巻物が沢山あるんです。生憎場所がよくわからなくて返しにいけてないのですが、もしお願い出来るのならば頼みたいのですが…」

「わかった!書庫ならわかるからそれを返してくればいいんだよねっ?」

「はい。それと、もしかしたら必要な書物があるかも知れませんので皆さんに聞いてもしあったらそれを持ってきていただいてもよろしいですか?」


こういう修羅場中、書物を書庫に運ぶ、書庫から書物も持ってくる。それだけでも物凄く助かるのだ。本当は私が出来ればいいのだけど書庫の場所があやふやだから出来なかったから。


じゃあ私聞いてくるからシャルは先に運んでて!と文官さん達の元へ走り出したピスティ様を見送り、そういいえばシャルルカン様に自己紹介をしていなかったと気付き慌てて頭を下げる。


「訳あってシンドリアに流れ着いた所を助けていただきここにおいていただいているすずりと申します」

「おう、ピスティ達からよく聞いてるぜ。オレはシャルルカンな」

「シャルルカン様、ですね。よろしいお願いいたします」


もう一度しっかり頭を下げてから運んで欲しい書物の山へ案内すればひょいひょい、とそれらを抱え運んでいって下さるシャルルカン様。

…男性はいいなぁ、力があって。

殆ど筋肉のないだらしない二の腕を掴みながらはぁ、とため息。


「すずりー!こっちの計算見てくれ!」

「はい!」


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